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地下室の扉を開くと、冷たい空気が肌を撫でた。

それでも今は、もう怖くない。

エリシアはライナルトの手をしっかりと握りながら、階段を一段ずつ降りていく。


ライナルトも黙ってついてくる。

彼の歩みは静かで、けれど確かな覚悟がそこに宿っていた。


やがて、たどり着く。“あの鏡”の前に。


かつてエリシアが、自分の名と向き合った場所。

いま、ライナルトが、“自分自身”と向き合うために立つ場所。


鏡は、最初は何の反応もなかった。

けれどライナルトが一歩、前に出た瞬間――その黒い水面が、静かに波打ち始める。


「……ああ、懐かしい感覚だ」


ライナルトがぽつりとつぶやいた。


「私が……自分の“影”を封じたのは、レイナを、……彼女を喰らいかけたあの夜だった」

感情も、渇きも、執着も……すべて鏡の奥に閉じ込めた。

それが“夜の主”としての、私の始まりだった」


鏡は揺れ続けている。

エリシアにはわかる。

そこにいる――あの“影”が、彼を待っている。


ライナルトが、静かに鏡の前に立つ。


「戻ることは、終わることかもしれない。

けれど、……君の声が、私に“終わってもいい”と思わせてくれた」


そして、エリシアの方に振り返る。


「君が望むなら、私はこの手を、鏡に差し出そう」

その先にあるのが、“ただの破滅”だとしても――君が選んだ夜なら、私はそれを歩こう」


あきらめたように笑うライナルトに力強く抱き着いて、エリシアは大きく息を吸った。


「違う、違うの。終わりじゃない、これから始まるの!!



あなたの、あなた達の名前は……ライナルト・ヴェルナー!!」



それは命を削るような、震える魂の奥から――絞り出された叫び。


エリシアの声が、夜を裂いた。

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