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ゆっくりと、一定のリズムで、迷いのない足取り。


「…………!」


心臓が跳ねた。

誰かが、三階に上がってきている――


そしてその足音は、まっすぐにこの部屋の前へ近づいてくる。


(……見つかったら……!)


何かに触れたことを悟られたら、もう“引き返せない”。


扉を閉めた音は、もう聞かれている。

逃げるには遅すぎる――ならば、隠れるしかない。


部屋の中を一瞬で見回す。

視界の隅、壁の奥――古いドールハウスの隣に、小さな扉がある。


(……押し入れ?)


小さな収納のような造り。ぎりぎり入れるかもしれない。

足音が扉のすぐ外で止まった。


ドアノブが、ゆっくりと回される音がした。……ギィと古い扉がきしみ、閉められた。


エリシアは反射的に、小さな扉を開け、その中に身を滑り込ませた。

ぎりぎりのところで身体を縮め、扉をそっと閉じる。


中は狭く、息苦しい。

でも、ここなら“見られない”。


沈黙。

足音。


誰かが、部屋の中に入ってきた。


一歩。二歩。

軽い足取り。けれど、確かな探知の動き。


少女の机の引き出しが、そっと開けられる音。

ベッドの下を覗く音。


――“誰か”が、確実にエリシアを探している。


そして、鏡台の前で足音が止まる。


しばしの沈黙のあと、低い声が、鏡の前で呟かれた。


「……見たんですね、貴女も」


(……!)


それは――グレゴリーの声だった。


「その印が浮かぶということは……鏡に触れ、呼応した証。

……ならば、貴女の記録も、書き換えられる可能性がある」


彼の声には、怒りも驚きもなかった。

あるのは、ただ静かな観察者の口調。


そして彼は、少女の机に何かを置いた。

カサリ――紙の音。


「もう逃げられない、とは言いません。

けれど、選ばぬままでは、誰かが代わりに選ぶ」


「……できれば、ライナルト様ではない方を。私は、そう願いますよ」


そして、彼の足音は部屋を出ていった。

閉まる扉の音が、静かに部屋に響いた。


……やがて、完全な沈黙が戻る。


エリシアは、まだ速い心拍を抑えながら、小さな扉の中で目を閉じた。


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