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ライナルトの部屋に案内されたエリシアは、しばらく静かに座っていた。

暖炉の火が心地よく部屋を温め、ライナルトが落ち着いた調子で「ゆっくりしていってください」と言ってくれたが、エリシアの胸の中には不安が残っていた。


「……ありがとうございます」


彼の申し出に甘え、少し目を閉じて深呼吸をしようとしたその時、エリシアはふと自分の指先に痛みを感じた。

どうやら、地下室を急いで出ようとした際に、何かに触れて傷をつけてしまったようだ。

微細な痛みが指先から広がり、エリシアはその手をじっと見つめた。


「ああ、怪我をしていますよ」


ライナルトが静かに言った。

その目がエリシアの手に向けられ、彼はゆっくりと立ち上がった。


「治療をしましょう」


ライナルトは何も言わずに、すぐにエリシアの傷ついた指先に手を伸ばす。

エリシアは少し驚いたが、ライナルトの目に見つめられると、何も言わずに指を差し出すことしかできなかった。

ライナルトは、指先をそっと取ると、ためらうことなくそのまま口に含んだ。


「――っ!」


その瞬間、エリシアは驚きと戸惑いで体が硬直した。

彼の唇が指に触れる感覚が、今まで感じたことのない不思議な熱を体に広げる。

その目に見つめられ、まるで無意識に彼に引き寄せられるように、心が動き出すのを感じた。


そして、ライナルトの目が、さらに深く見つめてくる。

その瞳の中に、どこか浮かれたような光が見えた。それに引き寄せられるように、エリシアの呼吸が次第に荒くなる。


「……ライナルト様」


心の中で何かを言おうとしたその瞬間、ドアの向こうからコンコンと軽くノックの音が聞こえた。


その音が、まるでエリシアを現実に引き戻すように響く。

驚きとともに、エリシアは慌てて自分の指を引き抜いた。


「……あ、あの」


心が少し乱れたその時、ライナルトはゆっくりと目を閉じ、深く息を吐いた。


「……すぐに開けます」


ドアを開けると、そこには老執事のグレゴリーが立っていた。

彼は静かに部屋に入ってきて、エリシアに一礼し、すぐに主人の方に目を向けた。


「ライナルト様、少しお話がございます」


その声はいつも通り温かいが、エリシアの心に浮かんだ違和感は、今までとは異なる。

グレゴリーの視線が、どこか意味深にエリシアとライナルトを交互に見た。


「……少し、よろしいでしょうか?」


その言葉に、エリシアは緊張しながらも頷いた。

ライナルトとグレゴリーが奥の方で話している。いけないと思いつつもちらりとその様子を見れば、グレゴリーがいさめるように、ライナルトはどこかそれをいなしつつ少しイラついたようにその話を聞いているようだった。

エリシアは手元のカップを傾け窓の外を見つめる。

今日も変わらず雪が降っていた。


「エリシアお嬢様、そろそろお休みのお時間ですが、いかがされますか?」


話が終わったのであろう、グレゴリーが彼女に声をかけた。


「まだ時間はある。私に話があるのでしょう?」


その言葉に、エリシアはライナルトを見た。


ライナルトは彼女ではなくグレゴリーを見据えていた。グレゴリーもその視線には気付いてはいるものの、エリシアにどうするか促していた。


「グレゴリー、下がれ」


エリシアの言葉よりも先に、ライナルトからの命が下る。

グレゴリーは、その口元が一瞬だけ苦しそうに歪んだ。


「……それでは、お時間が来るまでお待ちください」


そう告げると、グレゴリーは静かに部屋を出て行った。



「……ライナルト様、あの……?」


エリシアがそう問いかけようとしたが、ライナルトはただ静かに微笑み、彼女の目を見つめた。


「何も、心配することはありません」


その言葉には、どこか冷たさを感じるとともに、心の奥に潜む不安がますます膨らんでいった。


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