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見渡す限りの白。
雪は静かに降り続き、世界を無音の中へと閉じ込めていく。
吐いた息が白く揺れて、すぐにかき消えた。寒さのあまり、頬は痛みすら感じる。
そんな中、彼女はお屋敷の前に立ち尽くしていた。
辺鄙な土地にひっそりと佇むその建物は、どこか現実離れした荘厳さを持っていた。
彼女は小さく息を吸い、躊躇うように手を伸ばした。
重たげな鉄のベルを鳴らすと、その音は凍てついた空気の中で、澄んだ音色を響かせる。
「……ちょっと、怖いな」
呟いた声もまた、白く染まって消えていった。
冷たい風が裾を揺らす。彼女の手は、ベルを鳴らしたまま、止まっていた。
すると扉が、音もなく内側から開いた。
軋むこともなく、滑らかに。まるで彼女が来るのを、ずっと前から知っていたかのように。
「ようこそ、お嬢様」
そう言って頭を下げたのは、白髪の老執事だった。
背筋はまっすぐに伸び、年齢を感じさせないその姿には、どこか誇り高い気配があった。
しかし彼の声は柔らかく、目元には深い皺と共に、穏やかな笑みが浮かんでいる。
「道中、さぞお寒かったでしょう。中は暖めてございます。さあ、こちらへ」
差し出された手袋の手は、驚くほどあたたかかった。
雪で濡れた肩に、そっと毛織のショールがかけられる。
それは、まるで祖父に触れられるような懐かしさと安心感を運んできた。
「旦那様もお待ちかねです。…どうか、ご安心なさって」
老執事の言葉に、彼女は無意識に息をついていた。
張りつめていた何かが、ゆっくりと解けていくのを感じながら、彼女は雪の外から、暖かな屋敷の中へと足を踏み入れた。




