始まり
「おい!ボケッとすんなよ妄想太郎!」
頭を軽く叩かれてふと我に帰った。
「ごめん、考え事してて」
お前はいつもそうだろと言わんばかりに、雑にプリントを投げつけられた。
僕の名前は雨生ソウタロウ。都内の高校に通う二年生。クラスの一軍、二軍には妄想太郎と呼ばれている。
安易な弄り方だと呆れるが、そこまで嫌でもない。
初めは嫌で、名付けた親を恨んだが、一日の大半を妄想することに費やす自分にはピッタリのあだ名だとここ最近は妙に腑に落ちることもあり、この名前を気に入ってすらいる。
誰かと妄想することについて話したのはいつの頃だったろうか。教師に暴漢が入ってきたらどう対応するかという妄想、電車の窓から外を見て景色を横スクロールゲームに見立て、キャラクターを操作する妄想、クラスの女子にモテモテハーレム状態の妄想w
お前何歳だよww?やべーな!と言われ真剣に聞いてはくれる奴はいない。
ただ唯一幼馴染の一つ年下の晴日ハルカは、バカにしながらも僕の妄想話に付き合ってくれている。まぁモテモテハーレムの話はしないのだが。
彼女とは学年が違うので学校で話す機会はほぼないが、朝の通学が一緒のときが多い。
インキャな僕とは違って活発で友達も多く、俗に言う一軍の女の子だ。
まだ高校一年生だから僕の話しを聞いてくれているけど、そのうち目も合わせてくれないんだろうなぁと思っている。
実際、唯一話せる女子は彼女だけだし、少しばかりよからぬ妄想もさせてもらっている。
生まれつき茶色い艶のあるロングヘアー、大きくて強い瞳、年下と思えないくらい大人っぽいスタイル、そして人懐っこい性格。彼女を嫌いな人はいないだろう。
対して僕はインキャっぽい前髪、高くも低くもない細い身体、青白い顔、暗い性格、ド不運、頭痛持ち、とても並んで歩くのが恥ずかしくなるほどとにかく僕の真逆にいるタイプの女の子だ。
彼女とのこれからの高校生活を妄想して、現実になったらいいなあ、と思っていたのだが、今まで妄想が現実になってよかったためしはない。大体悪い方悪い方へと行くのが定番だった。
今朝も彼女と通学している。満員電車は苦痛だが、こんなかわいい子と一緒だと妄想せずにはいられない。電車の揺れと人に押され彼女との距離が近づく、吐息が近い。さらに揺れる電車、密着する身体、、、。
キーーン
頭の奥で耳鳴りの様な音がする。いつもこうだ。
妄想しているとこの頭痛が起こる気がする。考え事過ぎだろうか?医者に相談した方がよいのか。でも、妄想してると頭が痛くなるなんて言えないな、、、。
「ちょっとソウタロウ!」
彼女の声にハッとした。またいつもの妄想太郎が出てしまった笑
「ごめんごめん考え事してて」
彼女は少し怒った顔を見せた。
その顔もかわいいんだな。なんて思ってしまった。
キキー!!
電車が揺れて彼女がもたれかかってきた。
僕は彼女を無意識に受け止めた。顔が近い。触れた彼女の細い腕からはシャツ越しにも体温が伝わってきた。なんて、柔らかい。髪の毛のいい匂い、シャンプーなのかな?理性がぶっ飛びそうだ。
「ごめん!」彼女が言う。
慌てた冷静を装って「大丈夫?」と言うので精一杯だった。
たぶん僕は彼女の事が好きなのかもしれない。
そう思わせる朝の出来事だった。