【画像有り】恐怖!幽霊屋敷『闇哭館』の謎に迫る!
私は二階堂敬一。フリーのライターをしている。インターネット掲示板で食指の動く話題を探しては、それを題材として記事を書き細々と暮らしている。掲示板には真偽不明な情報が氾濫しているが、時には嘘のような真実も混じっているので侮れない。
私はいつものようにブルーライトを浴びながら掲示板の画面をスクロールしていった。
すると一つのスレッドタイトルに目が留まる。
『闇哭館まじで幽霊屋敷でワロタッタwwwww』
闇哭館……これまた大層な名前を付けたものだ。
スレッドタイトルをダブルクリックし、中身を流し見してみる。
どれ。黒衣を纏った男の幽霊?
大概幽霊を見ただの言う連中は、こぞって白い服、髪の長い女と宣うではないか。
どうやらこの文章の主人は、そこいらの連中とは違うらしい。
しかもご丁寧に件の闇哭館とやらの住所まで掲載してある。実に興味深い。
私はスマートフォンをポケットから取り出し、地図を指でなぞる。
あった。実在する住所のようだ。
航空図に切り替えると、山の麓の開けた場所に、ぽつねんと一棟の真っ黒い館が建っているのが確認できた。
事実無根の書き込みとみるには妙にリアリティがある。
この距離ならば車で三時間と少しばかり走れば確かめに行くこともできよう。
私は明日の朝、闇哭館へ向かうことを心に決めて眠りについた。
昨日の今日で私はさっそく例の闇哭館の前へとやって来ていた。
航空図で見た通りに黒を基調とした洋館が、閑散としたこの地にひっそりと聳え立つ姿はどこか異質感がある。
この館には何かあると思わせるには十分である。
当たりだ。久々に本物臭いぞ。
私は元々は立派であったであろう門の朽ちた隙間から敷地の中へと身体を押し込んだ。
先駆者たちもここを通って館に入ったのだろう。地面には雨風によって固められた足跡やらなんやらの人の跡が残っている。
私はその跡を辿るようにして闇哭館の入り口の扉の前まで足を進めた。
そして、少しばかり仰々しい飾り扉に手をかける。ノブを握って引いたり押したりするも、建て付けが悪いようでうんともすんとも言わない。
いや、実際にはギィギィと不快な音を立てるばかりで動かないのだが。
片道三時間もかけて、中にも入れなかったとなるとおまんまの食い上げである。
どうにかして中に入り込むすべはないか。
私はぐるりと館の周囲を練り歩いた。こうやってみると、闇哭館などと大それた名前で呼ばれているわりには、建物の体を辛うじて保っているばかりの廃墟である。
であるにも関わらず、すりガラス越しに黒い影が走るのが見えた。
こんなところに人が住んでいようはずがない。
野生動物が寝ぐらにしていて、ひょいと横切ったのを幽霊か何かに見紛うたのであろうか。
私は僅かばかりの期待と恐怖で脈打つ心臓を手で押さえた。
兎にも角にも確かめねばなるまい。
割れ窓の心理というのものだろうか。これほどまでに朽ちているのだ。多少壊れたところが増えようとも良心は痛まない。
私は大きめの石を手に取り、先ほど影を移した窓に打ちつけて破った。
廃墟となってとっくの昔に電気メーターも撤去されているこの館に光源などあるはずもない。
部屋の奥は暗くて確認ができないが、いかにもらしい色褪せた調度品が寂しそうに散乱している。
散らばったすりガラスのざらりとした感触を足蹴に窓枠へと足を掛ける。
雲の隙間から太陽が差し込み、部屋の奥にあるドアの向こう側を微かに照らした。
ーーーーーーーーーッ‼︎⁈
青白い、いや緑のような肌をした顔がぼうと現れ、物凄い形相で私を、見ていた⁉︎
私の心臓はどきりと飛び上がり、指先から体温が無くなっていくのを感じた。
鼓動が速い。肌の表面が粟立つ。
なんともいいえぬ生臭いような、腐臭のような匂いが鼻をつんざく。
まずいまずいまずいまずいまずい。
早くこの場を去らねば。
頭の中までどんどん冷えていくのを感じるが、思考とは裏腹に体が硬直して動かない。
びゅうと強い風が吹き、部屋の中に立てかけてある絵が大きな音をたてて倒れたのを皮切りに私は身体を突き動かし入り口へと走った。
入ってきた門の隙間から這い出でようとしたとき、風に乗ってパヴナス……パヴナス……と聞こえた気がした。
パヴナスとは何なのか、そんな事を気にかける暇もなく私は車へと飛び乗り、サイドブレーキを解除するのも忘れ走り出した。
文京区にあるワンルームまで帰ってきた私は、あのじっとりとした気色の悪い感覚を忘れられずにいた。
まだどこかにあの緑色の顔が、臭気が纏わりついているような気がする。
ノートパソコンを持ち出し、近くに住む大学生の甥、秋明が住む部屋へ上がり込んだ。
「叔父さんがこの部屋に尋ねてくるだなんて珍しいね。何かあった?」
小生意気にもコーヒーメーカーで淹れてくれたブラックコーヒーを私の前へ置く。
「いや。まぁでも面白い事はあったよ」
私は今日あった出来事をパソコンへ打ち込みながら、殊更気丈に振る舞った。
「ふぅん。フリーのライター?の叔父さんが言うんだから相当な事とみえるね」
秋明はドボドボと自分のコーヒーの中へ角砂糖をいれ、たっぷりのミルクを流し込んだ。
ふん。一丁前にコーヒーメーカーなぞを使っているが、まだまだ私にお年玉をせがむ可愛い子供のままだな。
私は一口コーヒーを口に含むと、角砂糖を二つそこへ放り込んだ。
「あぁ。幽霊を見つけたんだよ」
ガフッ
秋明が道を違えたコーヒーを吹き出す。
「宗教だとか、マルチだとかなら他所でやってよね。まさか幽霊が怖くてこの家に転がり込んできた訳でもないでしょうに」
私は秋明の溢したコーヒーをハンケチで丁寧に拭き取った。
そして秋明からミルクを受け取り自分のコーヒーへと注ぐ。
コーヒーとミルクがゆっくりと混ざり合うの待って私はこう答えた。
「そのまさか、さ」
秋明はゲラゲラと笑って先ほどコーヒーを撒き散らした床を転げ回る。
「やっぱり叔父さんは凄いや。いつにもまして今日のジョークは切れてるね」
ひとしきり笑った後、秋明は目の端の涙を指で拭いながら言った。
「真面目な話だ。今日は泊まるぞ」
私は記事の下書きを書き終えるとノートパソコン静かに閉じた。
「マジ?まぁいいけど。それ幽霊の記事?写真とか動画とかないの」
……しまった。記事は仕上がったものの確かに視覚的な記録媒体に残していない。
これではそこいらのネット掲示板と同じではないか。
私が狼狽えていると、秋明は私からノートパソコンを取り上げ、目を右往左往させながら私が先程書き上げた記事を読んだ。
「パヴナスって何?」
「知らん」
「ふぅん。結局証拠はない訳?俺が一緒に撮りに行ってあげようか」
秋明は何か面白い玩具でも見つけたかのように悪戯っぽい笑みを浮かべていった。
「あすこへもう一度行くのか」
私は尻込んだ。連れがいるからといって、あの恐怖をもう一度味わおうというのか。
「これじゃあ記事に出来ないでしょう」
秋明はいつになく挑戦的な態度を取る。幽霊なぞというものを空想上の生き物と思い込んで私の話を信じていないのだろう。
その余裕綽々な感じも、年上を揶揄う態度も生意気である。
こういう手合いには真実が最も薬になる。
「良いだろう。もう一度行く。お前も着いてこい」
私はすっかり甘ったるくなったコーヒーを喉に押し流した。
「やりぃ。着いていってあげるんだから今日は焼肉ね」
「甘ったれた奴め。叙々苑に連れていってやる」
こうしてもう一度闇哭館へと向かう契約は成った。
昨晩焼肉をたんまりと食べた私は、あの時の臭気をすっかりと忘れ、にんにくの香りで充満した秋明の部屋で目覚めた。
喉元過ぎれば熱さを忘れる。
人間とは愚かなもので、恥ずかしい記憶はいつまでも残っているのに痛さだとか恐怖は割合すぐに忘れてしまうのだ。
無敵感に包まれた若人が一緒となると尚更である。
私は口を開けて呑気に寝ている秋明を叩き起こした。
叙々苑を大盤振る舞いした二階堂敬一の漢気を、闇哭館でも見せねばなるまい。
「車で三時間と少しはかかるぞ」
「タイタニックが見れるじゃん」
秋明はタブレットと木製バットとマイクポップコーンを引っ掴んでリュックに収めた。
「そんなもので幽霊と渡り合うつもりか」
すっかり呆れたものだが、斯くいう私は初期装備でダンジョンに挑んでいた事を思い出した。
「まぁ、何も持たないよりかは随分いい」
道中、私は秋明に向けてブリーフィングを行ったのだが、当の本人はディカプリオの言葉しか耳に入っていないのだろう。こちらには一瞥もくれない。
何せタイタニックは不朽の名作だ。むべなるかなと思わないでもないが、憂鬱な三時間の片道を、私は孤独に過ごすこととなった。
闇哭館。
人間とは愚かなもので、忘れていた記憶も少しばかりのきっかけさえあれば、嫌な思い出を昨日の出来事のようにありありと想起させる。
出発前はあんなにも勇んでいた私の足は、彼の洋館を前にして笑い出した。情けない奴め。
「もう着いたの?あと数日は余韻に浸りたい」
秋明は赤くなった鼻をかみ、腫れぼったい目を擦っている。これから決戦の時だというのに情けない奴め。
二人で車を降り、門の前へと向かう。
「この隙間から門の向こうへ入るんだ」
私は闇哭館に初めて訪れた秋明に入り方を教えてやる。
「不法侵入じゃん」
一丁前に小難しい事を知っている。私が子供の頃はそんな概念などなかったが。門戸は常に開放されていた。
こういう場所は秘密基地だなんだといって不当に占拠したものだ。
「良いんだ。そういうものだから」
「ふぅん。まぁいいけど。叔父さん先に入りなよ」
「リュックを持っておく人が必要だろう。私が持っておこう」
私は秋明の木製バットしか入っていないリュックを奪い取った。
「はいはい、怖いってことね」
秋明はぶつくさと文句を言いながら朽ちた隙間を器用に通り、向こう側で私からリュックを受け取った。
触れないのが大人の振る舞いだというのに、まったく秋明はまだまだ子供だ。
そうして私も秋明に置いていかれないように続いて門をくぐった。
「うへぇ。これはもう廃墟だ」
秋明はリュックから抜き出したバットを肩に担いで先導する。実に頼もしい。
「この奥に入れそうなところがあったはずだ」
私は自分で破った窓の方へと秋明を誘導した。
「窓壊れちゃってるじゃん。ここが例の幽霊が見えた部屋?」
秋明は壊れた窓からまじまじと中を覗き見る。
「しぃ!いつ何時現れてもおかしくはないんだぞ」
私は出しうる限り最も小さな声で秋明を叱りつけた。
そして今度こそは幽霊をフィルムに収めんとして首から下げたカメラを握り込んだ。
「はいはい。緑のやつね」
私のどぎまぎとした心情を知る由もなく、秋明は窓から闇哭館へと侵入した。
秋明がスマートフォンのライトで足元を照らしてくれている。
私は光明に縋る思いで秋明に続いた。
ゴトリ
扉の向こう側から物が落ちるような音がした!
「前回はその扉の奥から尋常ではない形相でこちらを見ていたんだ。秋明、気をつけろ」
秋明もこれは只事ではないと思ったのかバットをいつでも振り下ろすことが出来るよう大きく振りかぶった。その時、
ーーーーーバンッ!
扉が、強風で持っていかれた時のように強くそして激しく開かれた。
突然生じたその音に、私も秋明も大きく身が跳ね上がる。
そして以前と同じ猛烈な臭気を感じた瞬間、
『ギィヤァァァァァア』
鼓膜を突き破ったのではないかと思うほどの大きな声で、扉の向こうにいた緑の肌をした何かが叫ぶ。
耳がきぃんと周りの音をかき消して何も聞こえない。あまりの恐怖に私は秋明の後ろへ飛びついた。
それが秋明を驚かせたようで、まるで女のような悲鳴をあげて二人で尻餅をついた。
大の男二人が情けなく身を寄せ合っていると、ゆっくりと扉が閉じる。
どっどっど。
秋明のものか、私のものか、或いはその両方かは分からないが、心臓の脈打つ音と先ほどのきぃんとした音だけが耳に残る。
「い、いた。本当にいた」
「いるって言った!私はいるって言った!」
しょうもない口喧嘩をしながら私たちはしゃにむにシャッターをきったカメラの映像を確認した。
緑の残像が確かにフィルムに収まっているではないか!
私たちは二人で顔を見合わせて再び身震いした。
「これじゃあ何かわからないよ!叔父さんの下手くそ」
秋明は私を大きな声で罵る。
「しっ!まだ近くにいるかもしれないだろう!」
私は秋明よりも大きな声で秋明を黙らせた。
「叔父さん!」
秋明は目を見開き私の鼻と口を手で覆う。苦しい。私はそっとその手を押し退けた。
「すまない。取り乱した。さぁすぐに帰ろう」
私が窓枠から外へ出ようとすると腕がぐいと引かれる。
「ヒッ」
「ごめん。驚かせちゃった。叔父さん、これでは証拠にならないよ。もう一度撮りに行こう。アレを捕まえたって良い」
秋明は目を燦然と輝かせて私を不気味な洋館へと引き込んだ。
「もう十分だ!このぐらいが記事にはちょうど良いんだ。私は帰らせてもらう」
私が秋明を悟らせるように語りかけるも秋明はかぶりを振った。
「次は不覚を取らないから大丈夫さ。それに、叔父さん。ホラーではその台詞を言った人からやられるんだよ」
私は急に一人でこの館を出るのが恐ろしくなり、仕方なしに秋明の気が済むまで着いて行くことにした。
「日が暮れる前には帰るぞ」
「面倒見が良いような雰囲気で言ってるけど、一人で戻れないだけでしょ」
秋明のこういうところが生意気だというのだ!
私は秋明を盾に再びカメラを握りしめた。
壊れたピアノ、取れたバルブ、いかにも仕掛けのありそうな片目が無いライオンの剥製。
お化け屋敷として売り出すのなら百点満点をつけることができるであろう不気味な洋館を二人で練り歩く。
廊下は一本道。しらみつぶしに部屋を見ていけば、例の幽霊を見失うことはないだろう。
実体があればの話だが。
先ほどあれだけ怯えていたはずの秋明は何故だか意気揚々としている。
秋明が次から次へと扉を開けては中を確認していく。
ミイラ取りがミイラになったのではあるまいな。私を奥へ誘おうとしてはいまいか、と考え出すと変な汗が滲み出る。
そうこうしているうちに最後の扉へとたどり着いた。
「叔父さん、最後の扉だよ。この中に絶対いる。心とカメラの準備をしておいてね」
私は無言で頷いた。
手汗でカメラが滑るので服で拭う。
「いち、にの……」
『さん!』
秋明は扉を大きく開け放った。それと同時に私はフラッシュを焚いてシャッターを切る。何度も何度も切った。ファインダーを覗くふりをして両目を固く結んだ。見るのが怖かったからだ。
「……誰も、いない?」
秋明の吉報をきっかけに私は薄く目を開けて様子を伺う。
誰もいない。そこには、この館の歴史の主人であろう者達の姿絵が飾られているばかりで何もありはしなかった。
ーーーーいっそ人であってくれよ!
私は心中で何度も悪態をついた。一本道ですれ違っていないという事は、奴は実体を持っていない、本当に幽霊であったということの証左ではないか!
秋明がずんずんと部屋の奥へ入り、机上の風化して今にも崩れそうな書類をつまみ上げて読んでいる。
置いていかないでほしい。私も部屋を見渡しながら入室した。
「秋明、ここに来るまでに誰ともすれ違わなかったぞ!引き返そう。我々の手に負える案件じゃない」
私は何やら紙の束を読み耽っている秋明の肩をぐいと引いた。
バタンッ!
背後で扉の閉まる音がした。
思わず振り返る。そういえば、この部屋には窓が一つもない。
ーーーまさか、閉じ込められた⁉︎
シューという空気の抜けるような音がどこからともなく聞こえてくる。
扉の向こう側からは、例の酷い匂いが漂ってきた。
『お前をパヴナスにしてやろうか……お前をパヴナスにしてやろうか……』
扉の向こうからおどろおどろしい声がこちらへ語りかけている。
開ければ、奴がいる……‼︎
「イヤァ!イヤァァア〜‼︎」
私は情けない声をあげ、半狂乱になりながら手あたり次第に本棚の本を扉の方へ投げつけた。
「アハ!アハハハハ‼︎アハハハハハハハ‼︎‼︎」
秋明は恐怖のあまり気でも触れたのか大口を開けて笑っているばかりで、今まさに我々の身に何かが起ころうとしているというのに何も手伝ってはくれない。
私は涙が目から溢れ落ちそうになるのを何とか堪えながら、本を手に取っては放り続けた。
その間にもずっと空気の抜けるような音は続いている。一体、何が起きているんだ⁉︎
最後の本を投げ終わるとカチリと不思議な音がして、本棚がくるりと回転し、隣の部屋へと繋がった。
「助かった!秋明!行くぞ!」
私は大笑いで息も絶え絶えとなっている秋明の手を引き、隣の部屋へと飛び込んだ。
そのまま体で窓を破り、外へと飛び出す。
そして秋明を引き連れてなりふり構わず走る。
気がついたら私たちは秋明の部屋へと帰ってきていた。
私は一体どうやって帰ったのかも記憶にないほど一心不乱になっていたようだ。
「あ〜びっくりするぐらい怖かったね、叔父さん!」
秋明はいつもの調子でベッドに腰掛けた。取り憑かれでもしたのかと思ったが拍子抜けだ。
足から力が抜け、腰抜けとなった私はへなへなと床へ座り込んだ。
「全く洒落にならんな」
「最後はシャッターチャンスだったかもよ?」
あんな事があったと言うのにまだこいつは……!
「結局、お守りのバットも用心棒の秋明も役には立たなかったな。焼肉を奢った分は働いてくれても良かったんだぞ」
私は危機感のない秋明に憤りを感じ、皮肉を交えて返答した。
「だって叔父さん。あの館はただの廃業したラブホテルの跡地だし、あそこにいたのは黄疸に苦しむホームレスの人だったよ?」
「へ?」
私の口からは何とも気の抜けた素っ頓狂な声がこぼれ出た。
秋明が話しているのは日本語であるはずなのに、話の内容が理解できない。
「あの部屋にあったホームレスの人の日記に書いてあったからさ、パニックになっている叔父さんの姿が可笑しくてもうッ……」
秋明は頭の中で昼間の様子を反芻しているのか笑いを堪えている。
「……」
何故帰ってくるまで教えてくれなかったのだという怒りが私を支配したが、それ以上に幽霊ではなかったのかという安心感を覚える。
「でも叔父さんはこれで記事を書かないといけないよね?どうするの?」
秋明はそう言ってコーヒーメーカーを弄り出した。
「それならば私に考えがある。まぁ見ていろ」
私は秋明の淹れたコーヒーに角砂糖とミルクをたっぷりと含ませながら執筆を始めた。
そして私は最後の文章をこのように認めてノートパソコンを閉じた。
ーーー闇哭館は何か分かりませんでした!いかがでしたか?
そして私は秋明とひとしきり今日の話をつまみに晩酌を楽しんだ。
しかし、結局パヴナスとは何だったのだろうか……。
ホラーは読むのも書くのも苦手です。だって怖いから。