1.転生
「お次の方どうぞー」
ん?
お次の方??病院にでも来てたんだっけ?
記憶にない。お腹がすきすぎて記憶が飛んだのか?
今、俺は周囲が真っ白の所に立っていた。
目の前には、自分の倍はありそうな大きな茶色い扉がある。
「”お次の方!!どうぞ!!”」
ここには自分以外誰もいない、どうやら呼ばれているようだ。
恐る恐る扉を開き中に入ると、白い空間の中央に置かれた机の奥に、一人の眼鏡をかけたスタイル抜群の美女がいた。
こちらに視線をくれるでもなく、机の上にタワー並みに聳え立つ書類と格闘しているようだ。ずっと下を向いて何かを書いている。
「あのー、ここは?」
「えーと、立川友樹さんね。あなたの死因は、えーっと、餓死です。お次の世界の希望はありますか?」
書類を書き続けたまま自分に死を宣告したこの人は、何者なのだろう?
手の込んだいたずらとかテレビとか?
「どっちも違いますねー、私は女神ですー」
なにを言っているんだ?この人は。そんな感想しか浮かんでこない。
「なに言ってるんだ?じゃないですよー、お次の世界はどうされますか?… あらぁ!」
やっと書類から目を上げたと思ったら、立ち上がりこちらにツカツカと歩いてきた。
自分の横に立ったと思ったら、体を嘗め回すように見ている。ボディービルダーとしても、男としても悪い気はしない。
「腕周り40㎝は越えてるわね、肩のリアもいいわ。僧帽は少し物足りない気もするけど、バランスを崩していないから、これはこれで良し!」
天国?地獄?でまで、筋肉の評価をされると思っていなかったが、筋肉を褒められると嬉しい。
鍛えた甲斐があるってものだ。
「上も下も脱ぎなさい」
「え?」
「いいから早く!」
眼鏡美女の声には、どうにも逆らえない力があった。本当に女神なのかもしれない。
体が勝手に脱ぎ始めてしまう。
「ふーん、四頭筋もいい、カットも出てるわね。大胸筋も腹筋もデカいわ、広背筋の広がりもいい」
訂正する。多分、女神じゃなく、ボディービルの審査員だ。
「いや、女神です」
さらに訂正、心の声が聞かれているので女神かもしれない。
だが、女神に今の筋肉を褒められても不本意だ、完全ではない。
「完全ではないって?どういうことかしら?」
「まだカーボアップしてないので、筋肉が縮み切った状態なんです。飯を食べると筋肉に張りがでます」
女神は一歩離れて、顎に手をやり何かを考えているようだ。
しばらく無言の時間が続いた。
「それ、やってみてちょうだい」
「でも、ごはんとか色々ないですけど」
どうしようもないことを伝えたところ、女神は右手を自らの机の横にかざし、その瞬間、何もない場所からテーブルセットとベッドが現れた。
「わぉ」
「必要な食べ物は念じれば出てくるようにしました」
「あ、ありがとうございます?」
自分の仕事を再開する女神の横のテーブルに座り、必要なものを念じる。
鶏むね肉、野菜、米、塩。グラムまで指定してみたがおそらくその通りくらいだ。
「やるしかないか…」
どうやら死んだのは、ホントっぽい。
カーボアップしてみるか。女神の部屋で…
自分が睡眠を取ったり、食事をしたり、器具がないので自重トレーニングで追い込んでいる横で、女神は次々と面接?を行っている。どこの世界に転生させるかを決めているようだ。
入ってきた人たちは皆、働く女神の横で筋トレする変な男に目を奪われている。適当な返事になって変なところに転生させられていないといいんだが。
「いけます」
パンプアップも終わった、体は完璧なコンディションだ。
そう伝えると女神はキラキラした目をしながら、勢いよく立ち上がった。
「さぁ!さぁさぁ!見せてください!!」
ここまで、期待されていたら本気のポージングをしないわけにもいかない。
フロントダブルバイセップスから始まり基本8種を一つずつ丁寧に女神へお披露目していく。
そしてこのポーズ、これがまたきつい。全身がつりそうになるのだ。
「おっほぉー、いいよぉ~、肩にちっちゃいジープ乗ってるよ~」
この女神はどこでそんな言葉覚えたんだよ…
「いや~、素晴らしい肉体でした」
一通り見終わった女神はほくほく顔だ。
自分も転生前の最後に、自分の努力の成果を確認することが出来てよかった。
来世も筋トレ頑張ろう!そう思えた。
「えー、じゃあ転生先の件ですが、私の世界で大丈夫ですか?」
「あれ?希望とか聞かれるんじゃ?」
「いえ、私が筋肉を眺めたいので、記憶を残したまま転生させます」
「えっ、あ、はい。ありがとうございます?」
よくわからないが、とりあえず記憶を残したまま転生できるようだった。
「何か欲しいモノとかありますか?」
「あ、マイジムが欲しいです」
「マイジムですか~、うーんわかりました。じゃあ生活空間付けときますね。器具は?3つまで!」
「オールインパワーラックとダンベル75㎏まで各種、あとはマルチジムで」
「その三つですね」
「あ、いやハックにしようかな、どうしよう」
「どうします?」
しばらく悩み、結局最初に言った三つに決めることにした。
「はい、じゃあいってらっしゃーい」
そんな、アトラクションみたいな掛け声かよ!
眼鏡美人女神の言葉と共に周囲は光に包まれ、そして何も見えない真っ暗な空間に放り出された。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。