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1.買い出し


 フェイシャイラとやらの狩りをしながら、メルヴィとの共同生活は3ヶ月を数えた。

 彼女との生活を続ける中で多少の信頼を得ることが出来たのか、メルヴィは自身の家族を亡くしているという事を、時々会話の中で漏らしていた。家族を失って同胞も失った彼女にとって、自分が多少の助けになっていることを願うばかりだ。

 他に変化したことと言えば、メルヴィの狩猟採集があるお陰で、多少食糧の自給が出来るようになったことくらいだ。

 結局この3ヶ月で自分の弓の腕は全く上達することなく、全ての狩りは彼女の弓の腕任せで、自分はついて回って狩った獲物を持ち運んだりする荷物持ちになっていた。

 成長することのない自分と比べ、メルヴィ体型は痩せこけていたところから、健康的な太さに戻り、目に見えて筋肉が付いてきたように思える。女性にもかかわらずこの短期間で筋肉が成長しているという事は、元の才能が余程あるのか、種族的に筋肉が付きやすいのかも知れない。

 


 我々がそんな平和な日々を過ごす中、それに変化をもたらす出来事が起きた。


「う~ん……」

「どうしたの?」


 完全に敬語も消えて打ち解けてきた彼女が、棚を見て悩む自分に話しかけて来る。


「いや……米と小麦が完全に切れた。他にも色々食料がないかも……」

「え?まだ足りないの!?」

「栄養バランスがね~」


 森でとれる物は確かにタンパク質やら食物繊維やらは十分なのだが、カーボ(炭水化物)が足りない。

 今必要なのは米か小麦で、そのどちらも森で直接採れるような物では無かったのだ。よってどこかで入手しなければいけないのだが、その方法が難しい。


「一番近い街って?」

「えっと……一応東にシトーってところがあるんだけど……」


 四頭筋みたいな名前だなという考えが頭をよぎるが、その筋肉ジョークは絶対通じない事が分かっているので飲み込んだ。


「四頭……シトーって町はどれくらいで行けるの?」

「2週間。私が最後にいた街だけど……あんまり治安が良くないかも」

「なんで?」


「王国は貧しいの。だから盗みとか、強盗とか殺人とか結構起きてるみたいで……それを取り締まる騎士たちも全てを敵のように見ているわ」


 貧しい中で心を豊かに保つのは難しいというのは、安月給の企業に勤めていた自分だから分かる。


「まぁ、でも……遅かったくらいだから。行って来るよ」

「えっ?」

「メルヴィも来ない?」


 眉間にシワを寄せて悩んでいる彼女の表情からは、不安が見て取れた。前回の滞在であまりいい思い出がないのかも知れない。


「無理して来なくても大丈夫だよ?ここは安全だろうし」

「……いや……行く」

「本当に?」

「うん……ユーキもいるし」


 自分は体がデカいだけで、武術を嗜んでる訳ではない。だが、威圧くらいにはなるだろうと思う事にした。

 早速翌日から始めた旅は、特に何が起こるわけでも無くゆっくりと進んで行った。家のキャンプ道具が異世界仕様に変化して、野宿には困らない。道中の食べ物も、メルヴィが集めながら、狩りながら動いてくれるので、自分がやる事と言えば荷物を持つことだ。

 正直、筋分解してしまうので荷物を持ったり、歩き続けたりはしたくないが、それを言った途端に「ユーキが言い出しっぺでしょ!?」とメルヴィに怒られそうなので、決して言わない事にした。



「もうすぐか?」


 メルヴィに尋ねたのは、9日目の事。整備された道に出た後に、初めて自分とメルヴィ以外の人にすれ違ったのだ。

 今までメルヴィから散々脅されてた為、遠目に人影が見えた時は少し身構えてしまったが、近寄ってみたら農作業に向かう老夫婦だった。その二人には随分と興味深そうに見つめられたような気がするが、確かに自分は体感老夫婦の倍はありそうだったので仕方がない。


「うーん……多分あと一日くらい」

「早いな」

「私が歩いた時はフラフラだったからかも?」

「完全に飢餓状態だったし、回復してくれて良かったよ」

「……ありがとう」

「……どういたしまして。こっちこそ助かっているよ」


 唐突なメルヴィからのお礼に、少し恩着せがましい言い方になってしまったかと少し反省した。

 何なら食べ物の確保やら、こちらの常識を教えて貰ったりと、自分の方がメルヴィから沢山の者を受け取っている気がする。


 そして翌日、我々は順調にシトーの門前に到着した。


「こんにちは」

「……」


 門の前に立つ門衛二人は、こちらを鋭い目つきで見つめたまま言葉を発することは無い。

 門番と言ったら、騎士らしい磨かれたプレートアーマーでもしているかと思ったのだが、革の鎧な上に、痩せこけた体がその服と革鎧の上から分かった。

 自分の身長と体格も相まって、武器を持っている彼らが随分と頼りなく見える。


「なんの用だ?」

「買い物しに来ました」

「入城料……銀貨10枚」

「えっ!?」


 驚きの声を発したメルヴィが小声で「前は入城料なんてなかった」と耳打ちしてくる。その声をしっかり聴きとった衛兵が、面倒臭そうに「治安維持の為に取るようになった」とこちらに言葉を投げて来た。


「メルヴィ、仕方ないよ。払って入ろう」


 折角10日も自重トレだけで済ましたのに、ここでカーボを入手できませんでしたなんてことは、絶対に避けたいのだ。仕方なく異世界化した自分の財布と、その中身から銀貨を支払って入城した。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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