38.薄幸令嬢、駄菓子屋に行く(1)
「おかえりなさいませ、瑛人様」
研究所に立ち寄った瑛人は、その足で小夜のいる離れに向かう。
その日は、夜も更けていたが小夜と蛍は食事を取らずに瑛人を待っていたようだ。
疲れている様子の瑛人に、二人が無言で膳を用意する。
「旭さんの行方だが」
瑛人の言葉に、しゃもじを持った小夜が丸い瞳を向ける。
「わからないようなんだ。すまない」
通夜の日以降、旭は姿を消していた。
旭から不老不死の儀式についての事情を聞こうと華峰家を訪れた瑛人は、取り乱した菖蒲に縋りつかれた。
華峰家に戻るだろうと思われていた旭は、いつまでたっても帰らない。
警察に赴いたが、家出人としてしか扱われず、捜索も、されているのかいないのか分からない状態だ。
大和に加えて、重要な参考人でもあるため、特務陰陽部隊でも捜索しているが、旭の足取りは忽然と消えており、いまだに見つかっていないのだ。
「そうですか……。お忙しいのに、気にかけていただいてありがとうございます」
小夜も旭を心配しているのだろう。いつもより暗い顔をしている。
瑛人も、旭と夜光の捜索を続けているが、足取りがつかめず、捜査が遅々として進まないことに疲弊していた。
「……暗い」
灯りのことか、と二人がつり下がっているランプを見ると、違う。と蛍に怒られた。
「あのね、旦那の仕事が忙しいのは仕方ないよ。小夜ちゃんも、家族が見つからなくて不安だとも思う。でもね、気欝にやられちゃいけないよ。明日も仕事を乗り越えるために、若旦那が帰ってきたときに明るく出迎えられるように、近いうちにお休みとって気晴らししておいで」
「また被害者がでるかもしれないときに、休んでなどいられない」
すげなく断る瑛人の鼻を、蛍がむぎゅっとつまんだ。
「こんなに青い顔して何言ってるの。最近、好きな駄菓子も食べてないでしょ」
離せともがく瑛人に応じてすぐに手を離した蛍は、パッと小夜に向き直る。
「そうだ、小夜ちゃんを行きつけの駄菓子屋に連れてってあげなよ。少しは気晴らしになるかもよ」
「……短い時間になるけど、明日、出かけようか? 小夜」
「瑛人様の、ご迷惑にならないのなら……」
「そうそう、こういう時こそ息抜き大事だからね!」
明るくふるまう蛍に押されるように誘うと、暗い顔をしていた小夜の顔が明るくなった。
家族が行方知れずになって不安だろう小夜を、仕事を詰めることで労わっているつもりだった。
だが、今回の反応で、近くで時間を共にすることも必要だったことに気づき、内心で蛍に礼を言う。
蛍を見ると、わかってると言わんばかりにパチンと片目を閉じた。
蛍には、いつまでたっても敵わないな、と小さく笑う。
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