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36.薄幸令嬢は婚約する(2)

 食事が終わり、瑛人(あきと)も人心地ついたようだ。


 落ち着いたタイミングを見計らい、小夜は瑛人(あきと)に話しかけた。


瑛人(あきと)様、折り入ってお願いがございます」


 目の前で平伏する婚約者の言葉に瑛人(あきと)は困ったように首を傾げた。


「私の妹、旭をどうか助けてください」


 旭は、混乱して通夜ぶるまいの席から飛び出してしまった。


今頃は、菖蒲(あやめ)たちが見つけ出しているか、落ち着いて華峰家に帰っているころだろう。


「旭は、霧城子爵と同じく不老不死の儀式を受けた。と言っておりました」


 その言葉に瑛人(あきと)の雰囲気が厳しいものになる。


「不老不死の儀式……」


「はい。霧城子爵と共に、旭が受けたと言っていました。子爵が血清で元に戻ったのなら、あの子にも血清をと思い……」


 甘い雰囲気から一転し、周囲の空気が張りつめていく。


「わかった。だが、血清は万能じゃない。あの血清はまだ研究段階で、打ち続けなければ屍食鬼(ししよくき)に戻ってしまうんだ」


 そんな……と呟いた小夜に、瑛人(あきと)と蛍が気の毒そうな目を向ける。


 不老不死の儀式を受けた霧城子爵は、屍食鬼(ししよくき)に変貌した。


 おそらく、その儀式とは以前瑛人(あきと)から聞いた吸血鬼が仲間を増やすための儀式ではないかと予想している。


大和が一時期行方をくらましていたのも、儀式を受けた後に若返った自分を霧城家に受け入れさせるために暗躍していたためだろう。


 霧城子爵は、一時的に吸血鬼の能力を手に入れ若返ったが、屍食鬼(ししよくき)化してしまった。


 血清を打ち、元の姿に戻った子爵を見た時、これがあれば旭も……と考えたのだが。


「それなら、もっと私の血を役立ててください!」


「だめだ。焦る気持ちは分かるが、一定量以上採ることは君の健康を損なう。今の状態で研究を続けていけば、今のものよりも良いものもできると思うから待っていてほしい」


「はい……」


 血清が完全に屍食鬼(ししよくき)を人間に戻すものではないことが分かり、少なからず落ち込んだ。


 知らず知らずのうちに、自分の血の力を過信していたようだと内心反省する。


「旭さんのことは、後日華峰家に連絡してみよう。それから、不老不死の儀式についても聞きたいことがある。この件に関しては、僕に任せてくれないか」


「ご無理を申し上げてすみません」


 再び深々と頭を下げる小夜を止め、頭を上げさせた瑛人(あきと)は優しく微笑む。


「いや、有益な情報をありがとう。霧城子爵の取り調べの指針もたつ」


 さすが僕の婚約者だ。と瑛人(あきと)が軽口を叩いたことで、緊迫した空気が柔らかなものに変わった。


 旭が逃げ出してからずっと気がかりだったが、菖蒲(あやめ)に詰め寄られたり、瑛人(あきと)との婚約のことを突然知って混乱したりと、なかなか言い出せなかったのだ。


 気がかりだったことを瑛人(あきと)に預けられたことで、重かった気持ちが少しだけ軽くなった。


「さあさあ二人とも、深刻な話は終わりにして、お風呂入ってきて!」


 頃合いを見計らったように蛍が声をかけてきた。


 瑛人(あきと)を先に、と風呂を進めると、真っ赤な顔をして辞退してくる。


「小夜ちゃんも気が早いな。まだ婚約段階なんだから、旦那のお風呂は帰ってからね」


 瑛人(あきと)の顔が赤くなったのは、そういうことか。と自分が風呂を進めた意味を知り、かぁっと顔が熱くなる。


「そ……そういう意味では……」


「わかってる……わかっているから……」


「は……はい……」


 互いに顔を赤く染めながらやりとりをしている二人に、似たもの同士。と蛍が笑った。

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