27.薄幸令嬢と鶏レバー
小夜が研究所の職員になって二月ほどがたった。
小夜を取り巻く環境が良くなってきて、健康状態が安定したため、ようやくいくらか血を提供できるようになっていた。
ぱさぱさだった髪には艶が入り、痩せ細っていた体はやや肉が付き、真っ青だった顔は血色が良くなっている。
痩せ細っているときは、頬がこけ目ばかり大きく見えていた顔もふっくらとして、もともと見栄えの良かった顔は、少女らしい美しいものになっていた。
懐鏡を貰って以来、いつもひとまとめにしていた髪は、瑛人がくれた着物が映えるよう丁寧に編み込まれて結いあげられていた。
運ばれてきた当時を知る研究所の面々は、容姿も身なりも各段に良くなった小夜を影ながら、よかったね。と言い合っていた。
当初は、まだ血を提供することもできないのにこんな風に自分を扱ってくれるなと言っていた小夜だが、瑛人に君は大切な存在だ。
けれど、いくら僕たちが君を大切に扱っても、君自身が君を大切に扱わなくては意味がない。僕たちのことを考えてくれるなら、自分を大切にしてほしい。と伝えられた。
なぜ、自分を大切にすることが瑛人たちのためになるのか分からないと首をかしげながらも、真摯な態度の瑛人に負け、言葉に甘えることにして療養期間を心地よく過ごさせてもらう。
この日は蛍が鶏を捌いてくれたので、皆で焼き鳥を囲んだ。
蛍が研究したという、秘伝の焼き鳥のたれは非常に美味しく、この日のために熟成させておいたと聞いて申し訳なく思いながら口にする。
初めて食べた肉の味は非常に美味しく、こんなにいいものをいただいてもいいのだろうかと戸惑っている内に、焼いた焼き鳥の串が次々と目の前の膳に積まれていく。
「ほらほら、早く食べないと冷めちゃうよ」
「焦らせるな、蛍。自分の塩梅で食べてもらえ」
目の前に積まれた串を上品にけれど素早く平らげていく瑛人に驚きながら、少しづつ食べた。
炊きたてのご飯、焼きたての焼き鳥、温かい味噌汁、新鮮な菜。
どれも美味しく、自分のために作られていると思うと、心が温かくなる。
早く健康になって、もっと血を提供しなくては。と気持ちがはやり、ため息をつきそうになって飲み込んだ。
こんな楽しい食卓に、小石を投げ込むような真似はしたくなかったからだ。
「あとね、これ。嫌だったら食べなくていいんだけど」
小夜の前に恐る恐るといった様子で持ってこられたのは、これまでの鶏肉よりも色が深く、やや黒い塊が連なる串だった。
「これは……?」
見慣れないものに首をかしげる。
「レバーという鶏の臓物だ」
「貧血に効果があるんだって。それを聞いてね、血を提供してくれてる小夜ちゃんにいいかもって、旦那が鶏ごと買ってきたんだ」
おかげで捌くのが大変だったよ。とぼやく蛍に、瑛人がすまんと謝っている。
「好みがあるし、嫌なら食べなくても……」
じっと串を見つめている小夜に瑛人が声をかけた時、小夜がぱくりとレバーの串を口にした。
血抜きがしっかりされており、カリカリになるまで焼かれたレバーは、塩が効いていて美味しかった。
「美味しいです。ありがとうございます」
笑顔で一串食べた小夜を、二人が嬉しそうに眺めていた。
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