25.薄幸令嬢の初給料(1)
「こんなにいただいていいんでしょうか……」
小夜が研究所に雇われて少しして、瑛人から手渡しで給金を貰った。
「いいんだよ、休むことも労働の内だし。それに、なにかと物入りでしょ? 外には出してあげられないけど、店の人に出向いてもらうことならできるからさ。それで必要なものを揃えたら?」
蛍に言われ、しばらく逡巡していた小夜は、あっと声を出す。
「それなら、香月様が使っていらっしゃるハンカチと同じものを買いたいです」
「若旦那のハンカチ? なんで?」
「それが……屍食鬼に襲われた時にハンカチをお借りしたんですが、私のせいで汚してしまって。そのままお返しするのは申し訳なくて」
「小夜ちゃんのせいじゃなくて、屍食鬼のせいじゃん。それ」
「いえ、私のせいなんです。私があんなところをふらふらしていなかったら、ハンカチを汚すことも無かったんですから」
目を伏せて悲し気に言う小夜に、蛍がため息を吐く。
「小夜ちゃん。その、私のせいっていうの、やめない?」
「え?」
「どんな物事も、その人のせいで起こることなんてないんだよ。いろんな事柄が複雑に絡み合って起こってるんだから。もし、いろんなことが自分のせいで起こるって本気で思ってるんなら、それは世界が自分中心に回ってるって思ってるみたいなものだよ」
蛍の言葉は衝撃だった。
これまで、悪いことが起こったら全て小夜のせいだと言われ、怒鳴られ折檻を受けてきた。
それなのに、突然これまで持っていた価値観がひっくり返るような言葉を言われ、驚きのあまり蛍を見つめ、沈黙してしまう。
「小夜ちゃんは、自分中心で考える子じゃないっていうのはわかるよ。いい子だもん。だからこそね、そんなおこがましいような考え、持つものじゃないよ」
「はい……」
蛍に軽く叱られてから、やや気まずい状態でその日を過ごした。
考え事をしていて上の空の小夜と、しまったなといった調子で気まずげな蛍の様子に、瑛人は何かあったな。
と感づき、二人を刺激しないように食事を摂り、蛍と共に帰っていった。
風呂に入り、さっぱりした後、蛍が整えてくれた布団にもぐりこんでもなお、小夜は蛍に言われたことを考えていた。
これまで、悪い出来事は全て小夜のせいだと言われてきた。その考えに疑問も持たず、自分のせいだと思い、自身を責めてきた。
自分を責めることで、家族に認められようとしていたように思う。
その考えすら、蛍に言わせれば「おこがましい」のかもしれない。
周囲から言われるがまま、様々な事柄を自身のせいにする癖は、悪い方向に小夜を導いたからだ。
思えば、女学校で出来た貴重な学友にも似たようなことを言われ、離れられたことを思い出す。
学友が言うには、なんでも自分のせいにする小夜のことが、重くなったということだ。
苦い思い出に身が寒くなり、毎日干されて太陽の香りのする布団に潜り込む。
次の日、すっかりいつもの様子の蛍に、小物屋に来てもらうように手配したから。と言われ、礼を言う。
蛍は、今日は用があるからと昼餉用の食事を用意して足早に帰っていった。
昼過ぎに香月家御用達の小物屋が訪れ、様々な小物を見せてもらった。
物腰も穏やかで、身なりもいい店員に怖気づきながらも、目的のハンカチを買い求めた後、ふと目に止まったものがあった。
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