23.薄幸令嬢の新生活(6)
「こんにちは。顔色が良さそうね、小夜さん」
「お世話になります。宇佐美先生」
瑛人について研究所の診察室に入った小夜は、隼の前で礼をする。
すると、すぐに隼の前にある丸椅子を勧められた。
瑛人に貰った白地に松と梅柄の着物が汚れないよう、慎重に腰かける。
これまで、継ぎのある着物か毒々しい赤い着物しか着たことがなかった。
なので、瑛人や蛍にも似合うと褒めてもらったこの着物を大切に着たいという思いが所作に現れていて、その様子を見た隼が微笑ましく笑う。
「香月のお坊ちゃんや佛木さんに言っておいたように、あなたの栄養状態が良くなるまでは採血はしないわ。でも基本データは盗らせてね」
隼の言葉通り、検査着に着替えた小夜は、身長から体重、体のサイズまで測られ、羞恥心が限界に達している。
「お疲れ様。大分体重が少ないわね。それに、貧血もある……」
「あの……私のお仕事は、血を提供することなんですよね」
「そうよ」
「なら、できるだけ早く血を採ってください。私、こう見えても健康なんです」
小夜の診断結果を見て眉を顰めていた隼に、家を出る前から言おうと思っていたことを一気に言った。
焦るような表情をした小夜に、隼はふっと笑う。
「小夜さんは、とても責任感が強い人なのね」
「じゃあ」
検査着の袖を捲り両腕を差し出す小夜を前に、首を振った隼は眼鏡を外し、モダン部分を軽く口にする。
「でも、だめよ。あなたの血はね、貴重なものなの。あなたが健康を損なってしまったら、もう二度と手に入らないかもしれない。だから、小夜さんは自分の体を労わって、健康な状態に保ってほしいの。怪我もなるべくしてほしくないわ。もちろん、病気もね。できる?」
真剣に噛んで含めるように言う隼に、小夜は頷くしなかなった。
これまで、傷つけられることも、食事を抜かれることも、熱を出すこともあった。
それでも小夜に割り振られた仕事が減ることはなく、不調な状態を押しながら、与えられたことをこなしてきた。
だから、血を抜かれる程度のことが仕事になるなんて思いもよらないことだった。
これまで、瑛人と蛍から与えられたものに対し、小夜はどれだけでも血を採られてもいいと思っていた。
そうすることでしか、彼らに報う方法が思いつかなかったのだ。
「あなたの仕事は、自分を労わることよ」
「自分を……労わる……」
「そ、そのうえで、私たちにいい血を提供してちょうだいね」
眼鏡をかけなおし、パチンと片目を閉じた隼に、まだ栄養状態がよくないから、あと一貫ほど太るよう申しつけられ、その日の小夜の仕事は終わった。
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