20.薄幸令嬢の新生活(3)
雀の声で目を覚まし、雨戸を開くと朝の冷たい空気が部屋に入り込んできた。
すうっと吸い込むと、爽やかな気分になる。
布団をあげ、寝巻を脱ぎ、箪笥の前で逡巡した後、自分が着てきた着物を身に着ける。
これから部屋中の掃除と食事を作らないといけない。
せっかく貰った着物を汚すことが忍びなかったのだ。
台所に下り、食材が無いか探していると、戸をとんとんと叩く音がした。
「どうー? 心地よく過ごせてるー?」
「佛木さん、どうして」
開いた戸の先にいたのは、食材の入った風呂敷を持った蛍だった。
急いで来てくれたのだろう。吐く息が真っ白で、頬が上気している。
「蛍でいいよ。だって、食事の支度、しなくちゃいけないでしょ」
いそいそと台所に入っていき、持ってきた食材を置いてゆく。
ご飯を炊くための釜に手を伸ばした時に、慌てて止めに入る。
「材料さえあれば、一人でできますから。蛍さんの手を煩わせるわけにはいけません」
蛍から奪った釜を手に、外にある井戸に向かった。
しゃきしゃきと米を研ぎ、水を入れ竈に乗せ、火をつける。
「気を使ってくれてるの? ありがとう。手際いいね」
「水瓶の水も変えておきますね」
「だぁめぇ。小夜ちゃんの体調が良くなるまで、食事のお世話は私がしまーす。栄養失調と過労で倒れてたんだからね!」
流れるように動く小夜を面白そうに観察していた蛍は、水瓶に水を汲もうと外に出ようとした小夜の前に立ちはだかる。
「でも……」
「でもじゃありませんー。病み上がりに労働は禁物だよ。さ、囲炉裏で温まってて」
蛍に背を押され、炭をおこして温かくなっている囲炉裏前に座らされる。蛍は、水瓶に水を汲むために井戸を往復しはじめた。
蛍だけを働かせている居心地の悪さに俯いていると、すかさず蛍が声をかける。
「もうすぐ若旦那も来るからさ、そしたら相手してあげてよ」
「え……香月様が……」
「そうだよ。若旦那ってさ、自分の邸宅でご飯食べるのあんまり好きじゃなくてさ、だいたいいつもここで食べてるの」
「そんな、それじゃあ私、お邪魔では」
「そんなことないって。若旦那一人でここで食べるの、いつもつまんなさそうだなって思ってたんだよね。小夜ちゃんが一緒に食べてくれたら私も嬉しいな」
「それじゃあ、蛍さんも……一緒に」
「だめだめ、これでも香月家の使用人だからね。小夜ちゃんは、研究所の職員で若旦那の保護対象だし。護衛も兼ねての食事ってことでいけるけど、私は使用人だからね。別に食べるよ」
瑛人が来ると聞いて、更に居心地が悪くなる。瑛人の顔を見られることは嬉しいが、瑛人を前にすると妙に胸がそわそわするのだ。
せめて蛍も一緒にいてくれたら、と思ったもののすげなく断られてしまった。
「でも……何もしていないのが落ち着かないんです」
「いいからいいから。できるまでお茶でも飲んで待っててよ」
囲炉裏に鉄瓶をかけた蛍は、お湯が沸くまで待ってね。と笑うと、手際よく朝餉を作っていった。
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