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 そぐわない。レイカと僕はそぐわない。この前、カスタネットができるまでを聞いたら一気に好きになっちゃった。諸説ありなんだけど、レイカのは信憑性が高いんだ。何たって僕が好きなんだから。

それによるとカスタネットは月外への脚本らしいんだ。

僕はレイカを前にすると上手く話せないんだ。体を斜め45度に傾けて考えてるフリをする。土気色の顔が光の加減だって言わんくらいにね。

「友達の友達から聞いたんだけどね、それには「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」って書いてあるらしいの」レイカはブリュレをティースプーンで食べてたな。

「カスタネットに?」

レイカは肯いた。「ゴーレムには胎児って書いてあって一文字削ると死になるって。あれと一緒」

日の当たるサンルームは暑いくらいだったな。僕らはそこで遅い朝食を摂っていたんだ。

「マントル深くまで達しているんだって、叔母さんに聞いたんだけどね」

「それで、作った人は?」

「自ら命を絶った・・」

「ホラーだね」

「姪が言うにはね、カスタネットはプルトニウムを吐き出し続けてるらしいの、まるで冷蔵庫のフロンガスのようにね」レイカはブリュレの表面を割って中の物だけ食べてたな。ジャック・オー・ランタンじゃないんだから後で食べるのかなって眺めてた。僕はもう食べ終わってたんだけどレイカのことを好きになったのは食べ終わった後だったんだ。

「姉の仲人のスピーチではね、私怨なんだって」

「親戚何人いるの?」

「数え切れないくらい。私、誰にも似てないんだな、きっと雨の日に生まれたからだわ」

僕は食後のコーヒーに何をしようか悩んでた。マンドリンにしようかなと思ってたけどこういう時はすかさず男の方が手を上げて同じの二つって頼むべきだろうって思ってたから手に汗をかいちゃった。レイカの方はゆっくりゆっくり食べてたけど、喋ってたのもあったけど、好みを聞くのも喉から火が出そうに口の中が渇いてたからマンドリンにしようか悩んでた。

「カスタネットを作った人はね、ひたすら歩くのよ。はとこの娘婿のおばあさんが見たんだって」

「あれ? 死んだんだよね?」

「体は死んでも心は生きてたのよ。砂と風の間に消えていったんだって、大叔母さんのご近所さんがまだ生きてた頃にあった美容師さんのお客さんでそのまた・・」

「いいよ、いいよ、もう」

「カスタネットができるまでは、って執念よね」レイカはやっと食べ終わった。蓋は食べず終いだった、食べない物と決めてるらしい。

僕はレイカの顔に涙黒子を見つけてますます好きになった。奮起して人差し指を上げた。

本当にイイ男は「おすすめは何ですか?」って聞いてくれる人かなって思ったから、来てくれた人に僕は「おすめすは何ですか?」って聞いちゃったんだ。レイカは一気に引いてたな。来てくれた人が男でよかった、聞き間違えた男の目をしてた。

「それで善悪の区別がつかなくなっちゃったんだって」

誰に聞いたかは言わなかった。多分、自分で考えたんだろう。片手をつなぐから片思いなんだね。

レイカは残ったブリュレをカップの底に落としにかかってた。さもありなんって感じだね。

もうティースプーンを使うのはやめてくれ! って叫びたかったけど、カップで出てくるんだからそれもアリかなと思ってそのままにしておいた。

やっぱりマンドリンが出てきたよ。

だって、「今日のおすすめ」って書いてあったから。

けど、僕はずっとレイカのことが好きなんだよ。広いおでこを出してそれがシーツみたいに綺麗なんだ。



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