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 アビゲイルはイカれてる。舌に耳飾りしてんだから。

ハイミナールをやってフラフラだったな。

「キーキー」

「キーキー」

丁度カスタネットの前だったから、アシテナガザルのマネをしたんだ。

その瞬間に、エマとミッチェルもアビゲイルに会ったんだ。

「マイ・ウェイ」を歌ってたな。うん。

カスタネットは銀のジャケットを着てるみたいだったよ。

カスタネットは錫でできてるんだ。

「ミシェル、ミゲルになるろ」アビゲイルはてんで呂律が回ってないんだ。

ガラスの原料は珪砂でできてるんだけど、アビゲイルの目には僕は珪砂に見えてるんだろうよ。

アビゲイルは指で歯を磨き出したんだ。

「どうしたの、吐きそうなの?」

「違うの、戻しそうなの」

エマとミッチェルは呆れてたな。割と常識人だから。

僕は小説を書く時はハイミナールはやらない、酒も飲まない。煙草はその時になったら吸うよ。

コーヒーを飲んだら小説だけになるよ。

ボクサーは刺激物はだめだからコーヒーも避けるっていうけど、ただでさえ興奮してるんだからいいと思うんだけどなあ。セコンドに戻る時に、瞼やなんかを一瞬で止血するだろ? あの術が欲しいんだ。血を流すことなんてないけどさ。

いつかの時、「朝からコーヒーと煙草しか飲んでません」って高らかに自慢してる人がいたんだ。ボロボロの合成皮革を着てたな。それがちょっとトラウマになっててね。

自分の語彙にないことを、自分の言うはずのないことを見たり聞いたりすると、泣いてる時に何度もリフレインするみたいに嫌な時に限って思い出すんだ。

僕はコーヒーと煙草を吸ったりすると、自分が細く細くなっていくような気がするんだ。僕はボクサーじゃないけどね、減量してる気分になるんだ。月が細く細くなって、猫の目が細く細くなって、ボクサーの瞼が腫れあがって閉じてるみたいになっていつか僕は消えてしまうんじゃないか。そんな時に一瞬で止血したいな。

愛と炎の歴史は砂まみれの顔を洗う水みたいなものなんだ。

アビゲイルのことをほったらかしにしてたけどとっくに吐いてた。

「アビゲイル、僕はミックだよ」

アビゲイルはハイミナールをもう一錠口に入れた。

みんなはハイミナールはピンクだって言うけど、僕には白く見えるんだ。

どうしてさっきカスタネットが銀に見えたんだろう。

夜だからかな。

何々が全てだって言い切れる人がいるけど、いっそ小説が全てだって言い切れれば楽だろうなあ。でも、僕は言い切れないでいるんだ。そんな、スイカの先端だけかじるようなこと出来ないよ。

いくらアシテナガザルでも、僕は人間だから。

前に全てが色に見えるって言ったね? それ、共感覚っていうんだ。具合悪い人につられるのも共感覚だね。

吐きそうだし、煙草も吸いたくない。

芸術は今死にかけてる。

大事なのは、「なぜ、それを知っていたか」だと思うんだ。共感覚もそうだけど、誰かが考えた前のことを僕は真似しているに過ぎないんだよ。

でも、それは盗んだとも違う。

すれ違う時、傘を傾け合うのを傘かしげと言うけど、小耳に挟んだ情報なんかも人との出会いと同じように運命的だと思うんだよ。

科学に学ぶ事も多い。発見することと発展させることを重用するんだよ。誰が盗んだの、それは俺が前やったの、芸の潮はゴミの高さで死んじゃうかも。

どんな分野も正統派、王道を継ぐ者が一番偉いと思うんだ。アビゲイルはジッカのことを気にしてる。

「あの子、また実家に帰るって」

ジッカは実家、実家と繰り返すからジッカって呼ばれてる。本当の名前は誰も知らないんだ。夫のワーイプなら知ってるかな?

人間はカマンベールで、芸術は生ハムかな? 火をかけたら台無しになっちゃうからカマンベールだけにしてよ。

「お父さんは喜んでる?」

別れ際、そう聞いたら、アビゲイルは「ううん」って首を振ったな。

どうしてそう聞いたかっていうとそれがアビゲイルの名前の由来だからなんだ。

大事なのは「どうして、僕がそれを知っていたのか」なんだ。

アビゲイルがかわいそうになっちゃった。

だって、アビゲイルが泣きそうな顔をしていたからさ。

透明なリボンを付けてあげたかったよ。誰だって好きでハイミナールやってるわけじゃないんだよ。

アビゲイルの後ろ姿は幽霊みたいだったな。


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