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夢だと気付いてる夢があるよね。それとも当たり前に思ってるかな? 僕はすぐに夢だと気付くんだ。夢の中じゃ色盲じゃないからだよ。
僕はハイミナールをやった。味をしめたら忘れられないんだ。ガラス街は白濁してた。トリニタイトでできてたんだ。
そこにはアビゲイルもいたよ。よくあるだろ? 映画の中で距離を取り合って進む奴。鏡や何かでお互いが見えなくなったり、隠れたりするんだ。その内に自分が自分じゃなくなったような気がして鏡に映った女が自分だったりするんだ。
アビゲイルは黄色い歯をして、ピンク色の服を着てた。僕らはすれ違うようにしてお互いを意識してるんだ。アビゲイルは口臭がひどかったな。
きっと、舌にピアスをしてるせいだ。ハイミナール作ったのは誰? 僕はトリニタイトに手を付いて、その向こうにいるアビゲイルに聞くんだ。
ベルギリウス、アビゲイルがそう答えたかは定かじゃない。二人とも手を這わせてるんだけどその手が触れ合うことはない。
アビゲイルは始終笑っていた。微笑んでいたと言うべきか。「核の時、大丈夫だった?」と僕は聞いたよ。それは、アビゲイルがもう死んでるんじゃないかって予感がしたからなんだ。死んだ人が夢に出てくることあるだろ?
「ミシェル、ミカエルになるろ?」ああ、やっぱり死んでるんだ、と思ったよ。天使の名を呼ぶなんて。
「僕はミシェルだよ、アビゲイル。君を迎えになんて行かないからね。君はずっと僕の友達だよ」一瞬で止血することができればアビゲイルを助けられたかも知れないと思ったな。
アビゲイルは恐るべき無表情で僕の前を通り過ぎた。僕はオディロン・ルドンに描かれた絵みたいな奇妙な顔をしてたな。
僕はアビゲイルを追いかけようとして、つまずいた。ニョロニョロが見えたんだ。あのムーミンのニョロニョロだよ。青い目をしてた。
あの世での食べ物を食べちゃいけないっていうから、僕はエレカからもらったクロワッサンを死守したんだ。それはバスケットに入れてた。ピクニックかハイキングか知らないけど、いつか、何もかも終わった時にエレカと一緒に行けたらいいな。
進化も弱さの表れだと思うんだ。人間は不完全に進化した。植物や虫の方がよっぽど完全だよね。人間は進化し過ぎた嫌いがあるっていうけど、天敵から身を守るために進化したわけだから弱さってのは必要なんだ。
弱さも含めて完全なんだ。もしそうじゃなかったら弱い人がいる説明がつかない。植物や虫は食物連鎖で進化していくけど、人間はああ言えばよかった、こう言えばよかったで進化していったと思うんだな。
大昔の人はそれをよく知ってた。狩りや何かで一人占めしただろうか? 仲の良い友人だけで折半しただろうか? 違うね、みんな友達だったんだよ。だから、弱い人も生き残れたんだよ。
アビゲイルの舌には血豆ができてた。シミュラクラって覚えてるかい。僕にはそれが一つ目の巨人に見えた。カスタネットの男の方が人間になったらちょうどそれになったみたいに。
舌を噛んじゃったのかな。痛そうだった。僕にはアビゲイルの顔が見えなくて、舌しか見えなかった。
それがだんだん存在感を増して、僕に迫ってくるんだ。お前は人間かってね。僕はよく分からなくなった。人間だと思っていたものがただの三つの点で、この世界はカスタネットの頭の中なんじゃないかって。
「あー!」
アビゲイルが舌を飲み込んじゃった。食べちゃったんだ。もう戻れなくなるよ。あの世での食べ物は反対な、ん、だ、か、ら、ね。




