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「どこも悪くない」って言われた。
「でも気になるんです」
周りは呆れてるみたいな感じだったな。
「気のせいじゃない?」
「でもどうしても気になるんです」診てもらうのはこれ一回きりだと思って僕は引き下がらなかったよ。
「綺麗な顔して」揶揄するような声が聞こえた。
たしなめるような雰囲気もあった。
聞き間違いか嘘を言っているのかそのどちらかだと思った。
耳に黄色い糸のようなものを入れられた。
心にもないことを言って僕を騙そうとしてるんだ。僕を馬鹿にしてるんだ。
耳の奥の変な感じは消えなかった。このままだと一回開いて閉じるとか訳の分からない事を言ったから、僕はすごすごとそこを出たよ。
診療費を払う時は、すごくめんどくさそうに対応してくれたな。耳の中に垂らす薬も出されたけどこれ以上耳の中に水を増やすのはどうなんだ、って思ったけどやっぱりもらった。毒を以て毒を制すって感じかな。
もらった点耳薬はすごい冷たくて、耳の奥に留めるなんて無理で、すぐに垂れたな。耳って意外と熱いんだなと思ったよ。
目が疲れたから、外を見ようと思ったらガラス窓はまだ曇ってた。そこに映っているのはキリストさんかと思った。僕の顔は彫刻みたいな顔なんだよ。曇っているのに気付かなかったんだ。僕も歳だから中間色がよく映える。
黄色に青を足すと緑になるように、僕の顔色は土気色じゃなかったんだ。人が見ている自分の顔と、自分が見ている自分の顔って違うんだね。僕の顔色はピンクだった。
憂鬱が吹き飛んだよ。踊り出したい気分で僕はエレカの部屋に行った。一段飛ばしで階段を駆け下りた。
エレカはまだ目が覚めてなかった。女の子がピンクを好きなのは遺伝だな、と思ったよ。エレカが僕の本物の子供だったらいいのにと思って髪を耳にかけてあげた。
今の僕のように楽しい夢を見ているといいなと思って本棚にある絵本全部でベッドを飾った。友達がいっぱいできますようにって。
僕も寝る時間だ、と思ってまた煙草を吸いに行った。本当は寝る前に吸わない方がよく眠れるって分かってるんだけどついつい吸っちゃうんだ。そこにはもう誰もいなかった。
青い夜空が綺麗で、煙草がなくなっちゃったから手で箱を握り潰した。
病院には煙草は売ってないんだね、薬になると思うんだけどなあ。仕方ないからポケットに財布とライターを入れてエレカが起きる前に帰って来ようと思った。
砂漠になった辺りに煙草の自販機があるから、もう眠かったけど、エレカの寝顔をじっと見てから出かけた。
誰かに見せてあげたくて人は夢を見るのかも知れないね。
トリニタイトはもう乾いてるだろうからそのままの靴で二度目の夜に踏み出した。




