o
o
爆風で僕は飛ばされた。タピオカが顔に付いた。レイカの言った通りだ。カスタネットが核爆発を起こした。善悪の区別がつかないってのがちょっと分からないけど。
カスタネットは文字通り大輪の花を咲かせたんだ。マッシュルーム雲が浮き立っている。
何だ、マッシュルームまで持ってたのか。
一帯は砂漠になったけど、アラバマだからしょうがないかなと思った。エレカとここまで来られたことを良かったと思ってる。
水色の砂漠だ。
エレカは高鼾をかいて寝てた。気を失ったように寝てた。頭を打ったのかも知れないと思って僕はクレイマークレイマーよろしくエレカを抱えて走ったんだ。
横断歩道も信号も無視して、総合病院へと急いだんだ。アンビュランスが何台も通った。
病院の待合室にいると、みんな、空が落ちてきた、とか、光を見た、とか訳の分からない事を言ってたな。
エレカの治療室に僕は立ち入らせてもらえなかったんだ。僕は顔に付いたタピオカを取ってみた。それはネチャネチャしてガムみたいだったけど、タピオカだと思ってたものはトリニタイトだったんだ。
トリニタイトってのは、核実験や何かで砂がガラス質になったものだよ。
外では水色の雨が降っていて、ガラス窓が曇った。みんなの吐く息で。僕はそこに十字を引いた。それが人の顔の下絵みたいに見えたな。
みんなガラス窓が曇ってることに気付きもしないんだ。ワイパーみたいに手を動かして露を払う人はいたけど、クリスマスだってそうはいかないよ。
僕は一人でビニール張りのロビーチェアに腰かけて、後から後から人が押しよせてくるのに一人の気がしたな、破れた箇所をほじくってた。よく子供がするように。外で泣けるのは子供だけだから、僕はウレタンをほじくりながらそれを見ていなかった。
ウレタンはあかぎれを起こしたみたいにそこだけ陥没したりはみ出したりしてた、それがここで待っていた人の証拠だと思えば苦にならなかったよ。でも、どうせこうなるならビニールが透明じゃなかったらよかったのにとは思ったけどね。
僕はあかぎれのロビーチェアを立って、閉じられたドアをノックした。「叩けよさらば開かれん」ってね。「何ですか?」ってマスクをしたナースが顔を出したよ。
エレカはもう寝かせられてた。僕は色盲だから手術がもう終わってるか分からなかったんだ。
「肋骨が折れてます」って医者は言った。「ご家族の方ですか」って言われて、僕は「はあ、そうですか」って言った。
立ち去ろうとした医者の肩を掴んで「神様ありがとう」って言ったよ。ずっと言いたくて言えなかったんだ。
僕はエレカの傍らに座った。僕の傍らには小さな子供のための絵本の本棚があった。僕はそこからはらぺこあおむしを出して、終わりから読み始めた。
ずっと子供のままでいてほしいとは思わないけど、チョコレートケーキを食べるところで僕は不覚にも涙ぐんでしまった。
エレカの体の中で肋骨が折れてて、それがどういう風にくっつけられてるのか知らないけど、僕は悲しくてたまらなかった。
はらぺこあおむしを戻して、窓の外を見るともう雨は止んでた。僕はエレカのおでこにキスをした。最初からそうすればよかった。
僕は煙草を吸いに外に出た。そこは煙草を吸う人の交遊場みたいになってた。ああ、煙草を吸う所はここにあったんだと思ったよ。
耳がおかしいなとは思った。耳の奥に水がつまったような変な感じ。耳を塞いであーと言ってみた。人に聞こえる自分の声と、自分が聞いてる自分の声は違うって言うけど、いつもと変わりなかったな。
総合病院だから耳鼻咽喉科もあるはずだと思って案内板を見るとちょうどエレカの寝ている部屋の真上に当たる。
そこは閑散としていた、打って変わって水を打ったように静かだった。医者がいんのか? と思ったけど喉を診てもらってる最中だった。
医師らしき人は一人で、何人ものお手伝いみたいな人が一緒に喉を覗いてた。どれも女の人だった。
嫌だな、とは思った。僕は醜いからきっと笑われるだろう。おばさんばっかりだったけど何もこんな時に耳を診せに来るってどうなの、って目で見られるだろう。
でも、僕は自分の耳を見たことがないからきっと美しいかも知れないと思って飛び越えたんだ。




