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 僕はニュースを見る度思うんだ。今日死んだ人は虫の知らせがあったのかって。ニュースなんてめったに見ないけどね。色盲を突き付けられてる気がするんだ。

あのバスに乗っちゃダメとか、出かけない方がいいとか思わなかったのかな?

朝はトラウマを思い出す。僕なんか毎日嫌な予感がするんだ。

昼寝をしたらしたで青息吐息だし、コーヒーを飲んだら飲んだで嫌な予感がするんだ。心が休まるのは寝る前くらいなもんだよ。

エレカには何でも伝えてほしいと思ってる。エレカがいつ「ダニーボーイ」を歌うか分からない。何たって木の股から生まれたんだから。

髪の毛が伸びたこととか、欲しい物があるとかちゃんと伝えてもらわないと分からない。

家族には秘密は厳禁だ。家族にはその家族にしか分からないルールってもんがある。そのルールは掟だから破ったら何にも言えなくなっちゃう。

ハイミナールをやってることは秘密だけどね。エレカにはすくすくと健康に成長してほしいと思ってる。でも、本当だよ。ハイミナールが減ったんだ。一時間に一つしかやらない。

煙草も一時間に一本。それはこの家族のルールだ。エレカは破ってもいいよ、それは僕が勝手に決めたルールだから。これからどんなルールが作られるか楽しみだ、僕はそれに従うよ。

モーセの十戒みたいに有難く受け取るよ。空が落ちてきても箇条書きにしてもらえると分かりやすいな。

人間にはそのままでいい人とそのままじゃいけない人がいると思うんだ。いつまでもガラス街が見える僕じゃダメなんだ。分かってるのに止められないのが酒と煙草とハイミナールなら、一つずつ止めていくんだ。そうすると分かることが一つずつ増えていくと思うんだ。

人生はギャンブルじゃない。それは酒を止めて分かったことだよ。

ニュースではカスタネットの紺色のブルマーばっかし映してたな。あの時は確かに紺色っぽく見えたんだけどテレビでは違う色に見えた。

エレカと時々お墓参りに行くんだ。花もだんだん枯れてきて枯れ切ったらレコードを埋めようねって話してるんだ。

レコードは土の中で分解されずに残るんだろうけど土の中で色んなお友達ができるよとも話してるんだ。

土の中の蚯蚓や土竜やお螻蛄なんかは歌を知らないだろうからきっと人気者になるよ。いつか秋の虫たちが出て来てどこかでCan't Take My Eyes Off Youを歌ってくれてるといいな、って思ってるんだ。

キリギリスだってアリにとって良いことをしてると思うんだ。音楽がない世界なんて想像できるかい? アリだってふとした労働の合間に楽しんでたと思うんだよ。

小説がない世界ってのは想像できるな、パピルスに書いてた頃が黄金期だったんじゃないか。それからは、あるからやるって追随者が多いんじゃないか。

現実は小説より奇なりってよく言うけどさ。小説はもうレクイエムに入ってるんじゃないか。それが現実のレクイエムなのか、芸術全般のレクイエムなのか。

この時代ではもうあんまり芸術は生まれなくなったんだよ。

人間が芸術を必要としていないのかな、芸術が人間を必要としていないのかな。

鼻を明かしてやりたいね、何かBIBLEみたいなものを作ってさ。

僕はエレカを連れて、欲しくもないオーディオを買ってHMVのビニール袋を手に入れた。花はもうしぼんでお別れを告げてた。

エレカと手をつないで、そのビニール袋にレコードを入れて、僕らは歩き出したんだ。象の墓場を探すつもりで歩き出したんだ。シートン動物記だっけ? あれしか思い出せない。

後は狼王ロボかな。確か妻を捕らえられて、それを餌におびき寄せられて殺されちゃうんだ。熊の話もあったな、血を何か、洞窟の上から垂らすんだよね。何だ、思い出せるじゃないか。絵しか思い出せない。

小説がお別れを告げてるように、「バイバイ」ってエレカの手を振らせて僕たちはカスタネットを離れた。

歩いていくうちに虫の知らせがあったけど無視した。いつものことだから。

そういう人もそうだったんじゃないか、って頭を上げたその時に後ろから黒い光が走った。



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