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 空から女の子が落ちて来た。裸ん坊だったんだ。

その門の前には「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」と書いてあった。野蒜が伸びていたっけ。一年中生殖可能なのが人間なんだからカスタネットは本当に人間になったのかも知れない。エレカはカスタネットから生まれたんだから。

僕はサムライになったつもりで雨宿りしてた。いいかい? サムライが、雨宿り、してたんだ。これは換骨奪胎だよ。一種のパロデーだね。これから何が起こるかは大体予想がつくだろう。

気取られようが察しがつこうが僕はこのパロデーを続けるよ。芸術には発展が必要なんだ。

雨がしとしと降れば心もしとしと濡れるし、雨がポツポツ降れば心もポツポツ濡れるんだ。

門の中へ入ると野戦病院さながらに遺体が転がってた。蛆虫の匂いがしたな。蛆虫みたいに何か動いてると思ったら一人の老婆が遺体から服を剥ぎ取ってた。何か歌いながら。呟いてたのかな? これは狂女だろうと思って僕は腰から刀を抜く代わりにsighをした。

振り向いた老婆は白髪で顔が見えないんだ。肯くとため息を吐くと呟くは三種の神器だな。窓にはガラスなんてはまってないもんだからモロに雨が吹き込んで凄惨さを増してた。たまに雷が光って老婆の顔を照らしてたな。

これも一切の希望を捨てるアトラクションなんだと思えば、気が楽だ。恣意的な発想はどうだろう? 自己欺瞞じゃないか。

まあ、どうでもいい。老婆は何枚も着物を羽織って、寒いのかな? と思ったけど、ハイミナールをやらないでもここまで狂ってるなんて正直怖かったんだ。

僕は一枚分けてほしいと思っただけなんだけど、だんだんこの老婆が憎くなってきたんだ。それはこの老婆が醜くて僕に似ていたからかも知れない。僕はライトセイバーを握って、「服をよこせ」と言ったんだ。

「ベアトリスだ! 私はベアトリスだ!」と老婆は叫んだよ。何のことか分からない。事の重大さを二人とも理解してなかったんだよ。

外ではエレカが待ってる。雨がこの部屋だけで外には降ってないといいな、と思いながら僕は足で遺体をつついてみた。ごろんと寝返りを打った人はまだ服を着てたけど汚かった。老婆は綺麗な服を選り好みして自分のものにしてたんだ。それぐらい正気はあるらしい。

どうして女の子はピンクが好きなんだろうね。僕はピンクを探したけど、老婆が着ていたカシューナッツ柄の着物がそれだったんだ。

僕は引っこ抜けそうな老婆の腕を掴んでその着物を引っ張った。老婆はクルクル回って転んだ。こんなに着物を着込んでるのに足は裸足だったんだ。

「お前がやってもいいことは、私がやってもいいのだな」僕は老婆から一枚一枚服を剥ぎ取っていった。犬を洗ってるみたいで老婆は小さく小さくなっていった。

カシューナッツのを腕に巻いて、冷や汗を拭うと、老婆は「ご無体な」と言ったよ。僕は優しく服を着せかけて「冷えるだろう」と言ったよ。老婆は「ありがとうございます」と言って、もう何のことか分からない。

僕は外に出て行って、エレカに後ろから服をまとわせた。エレカは服の着方も分からないみたいで、袖に腕を通さないで、肩にかけてたな。

目映い雷光が走った。山が見えた。

「勝ったのは百姓だ」僕はしみじみその言葉を噛み締めて、この雨でライラックは散ってしまっただろうかと思いを馳せた。

僕は濡れた髪をオールバックにして、エレカの黄色い髪を見た。髪を耳にかけててその耳がずっと見ていたいと思うほどチャーミングなんだ。生きててよかったと思えるくらいにね。

ライラックは枯れてしまっただろうか。



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