第55話 天神様と二番目の石②
お待たせ致しましたー
美しい……。
とても……美しい、光景であった。
(生涯で……このように美しいものを、我は今まで見たことがあっただろうか?)
いや……一度とて、なかったであろうな。
精霊殿……特に、ミザネと名乗られた……黒髪の美しい少年。
彼の者が……我がちらりと見つけた『聖樹石』とやらの前で、美しい少女姿の意識体……と呼んだ者とやり取りをして。
石に触れる時に……風が振動を起こしたような、美しい言葉を放った。
震えた風は……我らを通りすぎたかと思えば、樹々を煽り……木の葉などを強く揺らしたのだった。
何が起きたのかと前を見ようとしたのだが……石が美しい光を放ち、我らを包み込もうとしていたのだ!?
(……な、にが……!?)
ミザネ殿が……声高らかに、呪を唱えただけなのに。
さらに、光が。
風が。
辺り一帯を震わせ……我の身体を地に伏せようとする圧力をかけて、フータ殿を抱えておられるトビト殿も身動きが取れぬようだった。
世界樹の……力の源。
あの石は……一体なんなのか。
ミザネ殿は……大丈夫であろうか?
しばらく……身動きが全く取れないでいたが。そう言うものは長く続かぬと言うことなのか。
光が急に消え、あの美しい大岩のように巨大な石も消え失せ……圧力も無くなった。
代わりに……出来たのは。
『き……れ!』
フータ殿の仰る通り。
魔の森である通り……暗い景色でしかなかった、樹々や岩などが。
森の外で見たように……美しい緑や花々が咲き乱れた、森では見たことのない光景となったのだ!?
【……ありがとう、ミザネ】
意識体らしき、少女の身体は……透けて消え失せようとしていた。
おそらくだが……ミザネ殿が触れて、世界樹に届けたことで……彼の者も、溶けて消えるのだろう。
ミザネ殿は……少し瞳を潤ませながら、深く腰を折られたのだった。
「……次も、必ず世界樹に届けます」
【長旅の無事を……世界樹の中で見守っていよう。次の行き先は、すぐに世界樹から知らせがあるだろう】
「……はい」
世界の各地に、聖樹石はあるようだが……どれほど必要か。
我には……想像が出来ぬな。
しかしながら……この森は最早『魔』とは言えぬだろう。
美しく、生まれ変わった……幻想に近い光景。
我も住みやすくなるだろう……ミザネ殿からの、触覚を与える冒険者らへの願いを先に叶えなければ。
あの湖に戻らねば……と思っていると。
何かがこちらに近づく気配がした。
振り返れば……意識体のように、身体が透けたヒトの子が三名ほど居たのだった。
次回はまた明日〜




