少年とアドベントカレンダー
トントゥが少年に贈ったプレゼントはアドベントカレンダーになっていて、1つの課題をクリアしないとプレゼントが手に入らないようになっていました。きっと、最初は少年も戸惑うだろう。でも、一つでもクリアしてしまえばきっと大丈夫であろうとトントゥは思っていました。
少年が最初にクリアした課題は『お母さんにおはよう、という』でした。
朝起きた少年は最初『おはよう』と言うつもりはなかったのです。でも、少年の兄が起きて自分の事は無視して母に『おはよう』と挨拶するのを目にし、母は嬉しそうに兄の頭をなでる姿をみて。
少年はすこすごと母の前まで歩み寄り、視線をさまよわせ、ひと言の挨拶をしぼりだします。
「お、おはよう…」
「まあ!おはよう坊や!どうしたんでしょっ、朝の挨拶なんて偉いわね〜」
母は少年を抱きしめるように優しく背中に手をまわし、体を左右に揺らして嬉しさを表す姿を母に気付かれない様に、少年はそっと目だけを泳がせてみていました。
こんな事で、喜ばれることが少年には新鮮で、心地のよいどこかむず痒い気持ちになり、悪くないと思いました。
こうしてひとつめの課題をクリアした少年が次にクリアしたのは『家族へ挨拶をする事』です。母への挨拶をクリアした少年はこれに気を良くして、家族にも挨拶をしました。父も母と同じように驚きはするものの、喜んでくれました。ですが、兄は挨拶をしてもツンとすますだけでした。
それが変化したのは『みんなに挨拶する』を終えて、『家族にごめんなさいをする』のときでした。
これは、トントゥも苦戦するだろうと考えていました。でも、時間はかかってもクリアしてくれると信じていました。
少年もこの課題には苦労していて。先ず、何について謝ればいいのかすらわからなかったのです。だから、何を言えばいいのか分からず、ずっと考えていました。
謝るって、何がいけなかったんだろう?
僕は何をしたんだろう?
たくさんのわがままを言ったのがいけなかった?
怒らせたのがいけなかった?
…でも、なんであのとき、みんなは怒ったのかな?
おはようやただいまを言うようになったらお父さんもお母さんも喜んでくれた。
考えても、考えても答えは出てこないので、少年は諦めて数日を過ごした時のことです。
珍しく兄が母に怒られていたのです。どうしたのかと、こっそり様子を見ていたら。どうやら兄は母に何も言わず友達と遅くまで遊んでいたようなのです。
これを聞いたとき、少年はなぜ“言わなかった”ただそれだけで兄がそんなに怒られているのかわかりませんでした。でも、母が兄に言ったひと言で少年は気づきました。
「お母さんとっても心配したのよ?ちゃんと言ってから遊びに行ってね?お願いだから」
(そうか、やらなかった事もいけなかったのか…)
少年は自分が何をしなかったのか考えました。
おはようやただいま、ありがとうを言わなかった。出したおもちゃはまた使うから片付けなかった。自分の考えや気持ちばかり話した。周りの言葉は聞かなかった。相手の気持ちを考えなかった。それらに気付いた少年はすぐ家族1人ひとりにごめんなさいを言いにいきました。ずっと少年の事を見ないようにしていた兄は笑って許してくれました。少年はそれが嬉しくてたまりませんでした。
それからの少年はアドベントカレンダーの『クラスメイトと仲良くする』『誰かに親切をする』『困っている人を助ける』などなど課題を次々とこなして行き、全部の課題を終える頃にはクリスマスにプレゼントを貰えるほどいい子になっていたのです。