サンタクロースとトントゥ
トントゥは意を決してサンタクロースの待つ部屋の前で立ち止まり。深呼吸をして、静かにノックします。
「どうぞ」という声を聞き、トントゥはまた一息ついてから「失礼します」と、扉を開ける。
「君は、なぜ呼ばれたか分かっているね?」
「はい、サンタクロース。私はルール違反を犯しました。」
「ふむ…その理由は教えてくれるかね?」
少し考える素振りをして、サンタクロースは左手を右腕におき、右手で髭を撫でながらトントゥに聞きます。
「私は、あの1年。ずっとあの少年を観ていました。サンタクロース、あの子は悪い子ではないのです。少しのきっかけさえあれば、あの子は誰かの心に寄り添えるようになります!そう思ったから、あの時観ているしか出来なかった私はあの子にプレゼントをあげたいと思ったのです。」
この1年、ずっと胸の内にあった想いをサンタクロースに切々と語りました。これを話したからと言って、何かをして欲しいとか、許して欲しいといった感情があったわけではなく。ただ、サンタクロースに知って欲しかった。あの少年が悪い子ではないと。これからいくらでも変われる筈である事を。
「…そうかい、なら、私とお前さんでひとつ賭けをしないかい?」と、サンタクロースは今閃いたであろう賭けの話を愉しそうにトントゥに持ちかけるのです。
トントゥは少しばかり困惑気味に、でもサンタクロースの言おうとしている賭けの内容をなんとなく理解していると思っていたので、「何を賭けますか?」と聞き返します。
「そうだな、私の秘蔵の酒でどうかね?」
「いいですね。」
「ならば、決まりだ。来年のクリスマス、あの少年がプレゼントを貰えるかどうかだ。どうだね?のるかい?」
「ええ。勿論私は貰える方にかけますよ!」
賭けの約束をして、あっという間に次のクリスマスを終えて。トントゥはサンタクロースとの約束でサンタクロースの部屋に来ていました。
「どうですか?サンタクロース!やっぱりあの子は優しい子だったんです!」
「やれやれ、賭けは私の負けだな」
さして残念ではなさそうに、しかし、嬉しそうにサンタクロースは棚を開けてグラスとお酒の入った瓶をトントゥの前に持ってきて軽くふります。
「さあ、飲んでいってくれ。」
そういいながらグラスにお酒を注ぎ入れ。
「お前さんがあの子にかけた魔法を教えておくれ。な?」
「ええ、もちろん」
トントゥはサンタクロースからお酒の入ったグラスを受け取ると、そのグラスとサンタクロースの持っているグラスに軽くかたむけてみせます。
その日の夜は朝がくるまでずっとトントゥはサンタクロースに少年に贈ったプレゼントの話を聞かせました。