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7話

 剣の調子はぼちぼちだけれど、魔法の方は全然だ。初級魔法は割と簡単だったのだけれど、中級になってから躓いてしまう。

 まぁ初級魔法は完璧なのだから、中級魔法だってそのうちできるようになるわ!

 って思ったけれど、一ヶ月が経ってもできないままだった。剣はこの時期になれば実践練習までさせてもらえるようになったのに……。

 どうしよう、このまま中級魔法が使えなければ護符を外せなくなってしまうわ! 十四歳をこえれば、必要のないものよ。

 こうやって行き詰まったときは、気分転換が大切よね。

 魔法の秘密の練習場所である書斎を抜け出して、自分の部屋に戻る。

「ねぇハナ。私、街へ出たいわ! お父様から許可をもらえばいいのでしょう?」

「はい、ではご主人さまのお部屋に行きましょうか」

 ハナと一緒にお父様の部屋にやってきた。昼間のお父様は部屋で書類の仕事をしているか出掛けるかのどっちかだから、書斎にはやってこないの。だから、今までバレていないのよ。

「お父様、街へ出てもいい? もちろん、ハナも一緒よ」

「あぁ……。ハナ、頼んだぞ」

「はい」

 前に怒られてからはきちんと許可を取ってから、たまに街へ出るようになったの。街のひとたちは、私が行くとお菓子やお花をくれたりするのよ。

「お嬢様、今日はどこへ行かれますか」

「今日は少しお散歩をしたいの」

 街から少し外れれば、畑や農場が広がっている。のどかでぽかぽかとした雰囲気は、気分転換にはちょうどいいわよね。

 石畳の道を外れて土の道を歩いて行くと、牛が見えた。

 動物って、前世の女子高生のときから好きなのよね。ヲタクは推しにお金を貢いでしまうから、ペットを飼ったことはなかったけれど。

「こんにちは!」

 柵の中にいる牛に挨拶をして、まじまじと見つめる。牛の方も私をまじまじと見て、ぺろりと私の手をなめた。

「ふふ、見て、ハナ!」

 ハナも横にしゃがみ込んで、一緒に牛を眺める。ハナも穏やかな顔をしているから、きっと楽しんでいるはずよ。

 この世界のひとはみんな綺麗な顔をしているのね。ハナだってそうよ。ゲームから見たらモブキャラのハナもとても綺麗だもの。

 ショートカットの髪の毛を揺らして、ぼーっと牛を眺めていたと思ったら、いきなり後ろを振り向いた。

 私は気付かなかったけれど、女のひとが立っていた。多分、この農場のひとだ。

 麦わら帽子を被って、じっとハナを見ている。

「……マキア?」

「そうだよ。ハナ、久しぶりだね」

 綺麗な顔をふにゃ、と緩めて微笑んだ。

 右目の方だけ包帯を巻いていて、なんだか不思議なひとだった。

「ハナ、お知り合い?」

「はい、王宮に務めていたときの同僚です」

「はじめまして、カノン・ベールと申します」

「まぁ、初めまして。私はマキア・リエゾン」

 ニコニコと微笑みながら、後ろにくくった髪を揺らす。私の目を見ると、ふわりと笑う。

「そんな小さいのに、魔法が使えるんだね。ちゃんと護符も付けてるし」

 ……あ。これ、マズイやつ。

 ハナにももちろん言っていないし。

「……お嬢様」

 ダラダラと大量の汗が流れ出てくる。おかしいわ、そんな季節じゃないはずなのに。

「あらあら、そんな責めることではないし、ハナにだって隠し事はあるでしょ」

「お嬢様、きちんと説明をなさってください」

「お父様に何も言わないと約束してくれるのなら、全部言うわよ」

「いいよー」

 隣で聞いていたマキアさんが、ハナの代わりに頷いた。ハナはものすごい目で睨んだのだけれど、マキアさんはそれを無視して、私の手を取った。

「お嬢ちゃんは、秘密で魔法を練習しているんだね。その歳で魔法を使えるなんてすごいことなんだから」

「えぇ、誰にも秘密で練習していたの」

「まさかお嬢様、あのときに護符を買っていたのですか?」

「……まぁ、そうなるわね」

 多分、ハナに隠しても無駄だった。

「そうよ。私には夢があるから、秘密で練習していたの。魔法を練習するなんて言ったら、みんなして止めるでしょう?」

「それは危険ですから」

「だからちゃんと護符もつけたわ。私は夢のために、魔法の練習を止めるわけにはいかないの。お父様には秘密よ、約束したものね?」

 念を押すようにハナの目を見て、首をかしげた。

 ハナの横で、んー、と口元に手を当てていたマキアさんが、ぱちん、と手を打つ。

「私が魔法、教えてあげるよ。そしたら、危険なことなんてなんも無いし。ハナもご主人に報告しなくても大丈夫でしょ?」

 ハナは言葉に詰まって、とりあえずマキアさんを睨むことにしたようだった。

「ねぇ、ハナ、お願い! 私がやらなきゃいけないの!」

「……何を、ですか。夢っていうのは何なんですか」

 次に言葉に詰まるのは私だった。

 前世があるなんて言ったら馬鹿みたいだし、ダシアンさまが大好きなんて言ったら、ダシアンさまを知ってるはずないだろう、ってなってしまうわ。

「ま、魔王を倒すの」

 うん、嘘じゃないわ。ダシアンさまを危険から守るために、RPG要素の魔王を倒して乙女ゲー要素だけを残すの。

「何を仰って……」

「それくらいの能力はあるよ」

 ハナの呆れたような声を遮って、マキアさんが妙に真剣な顔で言う。

「ハナは分からないかもだけど、っていうかほとんどの人は気付かないだろうけど、私は分かるよ。このお嬢ちゃんは異常とも言える能力を持ってる」

 え、とマキアさんを見上げる。マキアさんは、私の瞳を見透かすように見つめてきた。

「だから私は見てみたい。この子がこの能力を何に使って、何を成し遂げるのか」

 次に顔を緩めて、私の目線に合わせてしゃがむ。私の頭に手を当てて、ゆるく微笑んだ。

「来られるときにいつでもおいで。私が魔法を教えてあげる」

 次に立ち上がって、ハナを見た。

「ご主人への報告はしちゃ駄目だよ。この子の邪魔をしてはいけないの」

 ハナはもう何かを諦めたように頷いた。

「お嬢様、いきなり剣を教えるように兄上に仰ったのも、そのためですか」

「……そうよ」

 ハナはため息をつく。

「分かりました。このことは、誰にも言わないでおきます」

「……! ありがとう、ハナ!」

 ハナに思いっきり飛びついて抱きしめた。ハナも私を抱えなおして、マキアさんに手を振った。

「もう帰らなくてはいけないから。……マキアが無事で何よりよ」

 マキアさんも微笑んで、ハナに手を振った。

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