1話
新連載です。同サイトで「伝説の大聖女って、私のことかもしれない」も連載中です。そちらも見ていただけると嬉しいです……!
え? まって、待って待って、ヤバい……ですわ!
鏡を見つめる自分の顔に、ぺたぺたと触ってみる。私、こんな綺麗な顔じゃないうえに、年齢も違うはずよ。こんなロリ……もとい、幼女じゃないもの。……いや、でも昨日もこうだった。
丸っこい吊り目に、口角が上を向いた紅い唇。綺麗な顔をしているわ。
まって、まって。分かった、分かっちゃった。私、転生者ね。そうよ、前の世界でさんざん読んだもの。ラノベも読みまくったし、アニメ化されたのなら見ていたわ。
ん? ということは……。
私、悪役令嬢じゃない! どうして!? 死んだのなら推しの部屋の壁になりたいって、ずっとずっと願っていたじゃない!
うそ、でもこの顔って、ヒロせかの悪役令嬢、カノン・ベールの顔よね、どう見ても。ヒロせか、ヒロインは世界のためならなんでもする、は一応RPGゲームなんだけど、乙女ゲーの要素も強くて。どちらのゲームも大好きな私にとっては一石二鳥のゲームでね……。
違うわ、それはいいの。前の私、死んだってこと!? うわまって、終わったぁ……。まぁでも、数少ない友達にPCをぶっ壊すこと、スマホを水没させること、このふたつは死んだときのために頼んでおいたもの。彼女、私の薄い本とかのコレクションは引き取るって言っていたけれど、無事回収できたかしら。
まずは、私の考えが正しいのか。これよね。
ロリ……じゃなくて、幼女には重い扉を押し開けて、お母様の部屋へ。
「ねぇ、お母様! 私のお名前は!?」
茶色い髪の毛をさらりと揺らして、驚いたように私を見る。私の今の顔も美しいと思うけれど、お母様譲りなのね。
お母様は走って部屋にやってきた私を見て、淡く微笑んだ。
「どうしたの、いきなり。あなたはカノン・ベール、わたくしのかわいい娘よ」
お母様の優しい声にほっと息をついて、私も微笑んでみせた。
「そう、そうよね!? ありがとう!」
お母様の部屋の扉を開けて、廊下をひたすらに走った。
無駄に広いこのお屋敷の中も私には覚えが無いけれど、なんだか分かる。
毛足の長い絨毯の上を走り抜けて、角を曲がると、
「……ぶへっ」
「あぁ、ごめんね」
この方は……! アリア・ベールさま!!
ということは、私のお兄様になるのね!
お兄様は少し屈んで、私の頭に触れる。
「カノンったら、お屋敷の中を走ってはいけないよ」
「はい……。申し訳ございませんわ」
少し頭を下げて、上目遣いにお兄様の顔を盗み見た。美しい。
私と同じ薄い茶色の髪と、私とは違った垂れ気味の目と、その他の美しいパーツが、彫刻のように完璧な配置で収まっている。
こんなイケメンに怒られたとあらば、私でも落ち込んでしまうわ。
「次からは気をつけようね」
私は少し上を見上げて、肯いた。
お兄様は少し微笑んで、去っていった。
今度は気をつけて、部屋まで歩いて戻る。戻るなり、ベッドにダイブした。こんなところを見たら、きっとお兄様は怒るでしょうね……。
……そう、お兄様ヤバい、ヤッバい!! 顔面国宝! あのお顔で微笑まないで!
でもごめんなさいお兄様、私は心に決めた推しがいるの。あなたに落ちるわけにはいかないわ。
って、そうよ! 私の推しは? そして、ヒロインちゃんは!?
ヒロインちゃんはキャラメイク可能だけれど、そうなるとデフォルトの見た目になるのかしら。彼女と出会うのが楽しみで仕方ないわ。
そして何より、私の最推し! この国の王子様で、とても素敵なお方なの!
でも私、転生したからって、彼の婚約者になろうなんておこがましいこと、思いもしないわ。
黙って推しの幸せを願い、決して邪魔はしない。そう、私たちは壁!!
これが私の理想のヲタク。
私の記憶が正しければ、ダシアンさまたちが魔王討伐に出るのは、ダシアンさまが十七歳になったとき。
ダシアンさまと同い年のお兄様は今十歳だから、あと七年。
そのときが来るまでに私がやるべきこと。それは、魔王討伐!
ここは私たちにとっては現実。わぁ、RPGだぁ、なんて言っていたら、死んでしまうわ! 王子が死んでしまったら、私はこの世界で何をすればいいの!? 否! そうはさせない!
この私が、RPG要素を叩き潰して、ヒロインと幸せになる姿を目に焼き付けてやるわ!
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