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絶滅危惧種は恋をする  作者: ななな
9/25

散髪の裏側

時を少し戻して凜音の散髪のときの話─

 凜音は美容院のガラス扉の前に立っていた

 ガラスには白く筆記体で【Hair Salon】と書いてあった

(…ここだよね…?)

 

 彼は散髪といえばいつも千円カットで済ませていた

 

 ではなぜ今回の散髪で、新しい美容院に来たのだろうか

 

 更に時を戻そう

 

 *****

「…新しい美容院…ですか?」

 と食器をテーブルから下げながらバイトの店長である黒崎くろさきたかしに聞く

 黒崎はにこりと微笑み、頬杖をつきながら頷く

「そう、友人が新しく始めたんだ」

 彼の年齢は25歳と店長にしては少し若い

 切れ長な瞳は少し青く、髪はブロンドである

 クォーターだからである

 

「最近凜音君髪伸びてきたじゃない、しかも【おまかせ】頼むととても安くカットしてくれるらしいよ」

 と凜音に言う

 

 凜音と黒崎はこの喫茶店で出会った

 凜音が休講なのに間違えて来てしまった入学したての頃、少し駅付近を散策しようと入ってきたのがここであった

 黒崎は絶滅危惧種な凜音の様子を見て一目惚れし、ぜひ、看板娘(?)として雇わせてほしいと頼み込んだ

 

 そのような経緯で働いているので、彼は黒崎と仲が良い

 だから今も少し早めの店じまい中だと言うのに黒崎は優雅に脚を組んで椅子に座りせっせと働く凜音を見つめながらこんな話をしているのだ

 

「…そうですね…そろそろ切りたいと思ってましたから、行こっかな…」

 そういう凜音に黒崎は瞳を輝かせた

「是非!【おまかせ】をおすすめするよ、格好良くなって帰ってきてね、凜音君はうちの大事な看板娘なんだから…」

 

「…はぁ…なるほど…?」

 

 *****

 そして今に至る

「入るしかない…」

 意を決して扉を開く

 カランカランと開けた扉が音を奏でる

 するとカウンターにシルバーのマッシュの若い男性が立っていた

「いらっしゃいませ、君が凜音君だよね?」

 と聞かれた

「…は、はい…北条凜音と申します…あなたが、黒崎さんのご友人の…」

 と凜音は恐る恐る聞く

「そうだよ、尊から話は聞いてるから、まあ、リラックスしてよ

 今日はどんな感じにする?」

 と話されながら気づけば手際よく椅子に座らせられていた

 

「…えっと…おまかせ、で」

 と黒崎に言われたとおりに頼む

 すると相手の瞳が輝いた

「おまかせ、でいいんだね!?」

 

「…は、はい…」

 と返事をする

 彼は凄まじいスピードで道具の準備をし始めた

 

「…おまかせとは言っても、いつもどんな感じなの?」

 と準備が落ち着いた頃に凜音は聞かれた

「えっと…この髪をもう少し短く切っただけの感じで…」

「なるほどね…ああ、大丈夫、髪染めないから」

 凜音の【おまかせ】に怯える瞳を察したのか彼はそう言ってくれた

「凜音君ってなんか、絶滅危惧種って感じだよね〜

 だから、髪染めるのちょっともったいないな〜」

 という理由らしい

 そしてまずはジャンプーしようという流れでシャンプーを終えてまた鏡の前に座った

「うち猫飼ってるんだけどさ、なんかうちの猫みたいな髪質だね〜乾かすの楽しそうだよ」

 といろいろ言ってくるのを少し聞き流しながら凜音は、両手に力を込めて美容師の方に振り返って言った

「あのっ…」

 きょとんとしてから、優しく微笑みながら

「どうしたの?」

 と聞いてくれる

 凜音がこういう場所に慣れていないことを察して言いやすいようにしてくれているのを感じた

「あの、僕…」

 少し恥ずかしそうに耳を染めながら凜音は言った

「かっこよく…してください…」

 

(めっちゃ恥ずかしい…でも、)

 

 もちろん凜音はいつもこんなことを言うわけではい

 今凜音の頭に浮かんでいるのは

 明るい笑顔を灯す女性の顔

 

 夏休みに入る前まではこんなことを考えもしなかったけど

 すこしだけ、そう、少しだけ

 

(伊織さんに…驚いてほしい…

 僕のこと…ちゃんと見てほしい…)

 

 そう思って言った

 

「…もちろん」

 美容師は優しい笑顔をともしながら色々察してくれたようだ

 

 そして彼はさっぱり切ってもらって少しだけ胸を躍らせながら電車に乗って帰っていた

 自転車に乗って

 ああ、もう少しで

 

「…伊織さん…?」

 帰る途中でまるで出会ったときのように伊織が歩いていた

 

「…あぁ…」

 凜音は微笑む

 そしてなるべく早く伊織のもとへと自転車を走らせる

 伊織が気づいたようにこちらに手を振ってくる

 

「伊織さん…」

 自転車からおりて少し早めに歩いて伊織のもとへゆく

 

「似合ってるよ…!」

 

 満面の笑みの伊織

 

 そう言われたのが嬉しくて

 

 

 

 凜音は

「伊織さんがそう言ってくれてよかった…」

 

 優しく微笑んだ

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