凜音の言葉
凜音に悩みを打ち明ける伊織
そんな凜音は伊織のことをまっすぐ見つめる─
凜音の瞳は真っ直ぐで伊織には少しだけ眩しい
でも
こんなに真剣に話してくれるのが少しだけ嬉しかった
「伊織さん…そんなこと、言わないでください」
凜音は悲しそうに語る
でも、その声は強さがあった
「伊織さんは弱くなんかないです
僕の大切なものを馬鹿にしなかった
僕が怖がって作っていた壁を壊してくれた
僕のことを否定しないで、受け入れてくれた」
凜音はその手をぎゅっと握りしめていた
「あの猫のお墓…」
伊織が夕方ピアスをお供えしたお墓だ
「…僕、表情とか、声とか、気持ちがわからないって言われるので、ほんとは悲しかったのに、飼ってた猫が死んじゃったとき涙も出なかったんです」
彼は感情表現が少し苦手で、感情そのものが少しだけ薄い
「だから、周りの人から猫が死んじゃったことについて、思い出したくないのに聞かれたり、悲しくないんだと思われて飼ってた猫のあまり良くないことを言われたりしたんです」
表情に出ないから、誰も気づかなかった
凜音はその猫が大好きだった
今も大好きで、昨日のことのように思い出すことがある
でも、それが見えないだけであまり猫への愛が周りの人間に伝わらなかった
彼はそれがひどく悲しかった
自分の心が薄いせいだと思っていた
「…でも」
でも
「伊織さんは僕の猫のこと、大好きな猫のことを同じように大切にしてくれた」
伊織の瞳が大きく揺れた
だって凜音が優しく微笑むから
「僕それが、ほんとに嬉しかった」
初めて見た凜音の笑顔はひどく優しくて、伊織はなぜか涙を流した
「だから、僕は伊織さんがここにいてくれたほうが楽しいと思ったんです、静かな日常がもう少し、優しくなると思ったんだ…」
その声は優しくて、芯が強かった
伊織は嬉しかった
「…ありがとう…凜音君、優しいんだね…」
自分のことを見てくれる人にも気付けずに、人の心ばかり気にしていたから
そうやって静かに考えてくれる人がいるだけで嬉しかった
「私、ここに来てよかったよ」
「そう言ってくれて、良かったです」
静かで優しい不思議な感覚が伊織を包み込んだ