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絶滅危惧種は恋をする  作者: ななな
6/25

伊織の悩み

二週間泊まることになった伊織

忙しく準備を終わらせてゆく

凜音が一息ついていると伊織が来る

そんな伊織は少しだけ小さく見えて─

 伊織を部屋まで案内して

 荷物の整理をさせて

 一息つく頃にはもう6時を回っていた

 

「…ふぅ‥やっと終わった〜」

 伊織はヘトヘトになって畳の床に転がる

 するとドアを叩く音が聞こえた

「伊織さん、終わりましたか」

 凜音の声だ

 

 伊織はさっきまでヘトヘトだったが元気に答える

「終わったよ〜!」

 すると凜音が

「飲み物とか用意したので居間に来てください

 僕は夕飯作るので台所に行ってますね」

 と、感情の乗らない声で言って、足音が遠ざかっていった

 

「…凜音君…料理できるんだ…」

 

 と伊織は感心したようにつぶやいた

 (…私○ber Eatsなのに…)

 *****

 

 凜音が夕食を作っているとき

 伊織は礼子と和やかに話をしていた

 

「…そうなんですね〜…ふふふっ…」

「そうなの、あのときの凜音ったらほんとに可愛くて」

 

 などと本人がいない間に本人の話に花を咲かせる

 

 すると夕飯ができたようで

「…ばあちゃん、夕飯できたよ」

 と凜音が台所から出てきて言った

 

 *****

 夕食後、凜音は食器を洗って一息つきに縁側に座っていた

 

 祭りのあとのような静けさだ

 居間の方で聞こえる二人の声が少しだけ小さく聞こえる

 

「…蝉…」

 

 うるさい筈の蝉の声も少し遠く聞こえる

 

 凜音は縁側の窓の縁に頭を預けて目を瞑っていた

 そうしていると自然と自分の境界線が無くなっていくみたいになる

 

 とても心地よい

 

「何してるの?」

 突然伊織が話しかけてきた

 

「…っ」

 驚いて声が出ない凜音

 

「…び、びっくりした…」

 と静かに言って胸を撫で下ろしてから伊織に

 

「…ゆっくりしてたんです…伊織さんは何を?」

 と聞いた

「…なんとなく…かな?」

 と伊織は下の方を向いて言った

 そんな伊織の口元は少し微笑んでいるが瞳は上手く光を灯さない

 

 昼間とは異なる雰囲気に凜音は少し手に力を入れてから

「…なんかあったんですか」

 と聞く

 

 すると伊織は凜音の方を見つめた

 (聞いてくれるとは思ってなかったな…)

 今までの凜音の感じから、人に興味を示さない子なのかと思っていた伊織

 しかし

 凜音の瞳は純粋な黒で

 居間の明かりを灯し

 

 少し下がった眉は伊織のことを優しく心配している

 

 単純な興味とか、好奇心で聞いているわけではないのはその表情を見ればわかった

 

 嗚呼、2週間だけの付き合いなら

 吐き出してしまっていいのではないかと

 

 伊織はゆっくり、口を開いた

 

「私ね、ほんとは彼氏に振られてここに来ようと思ったわけじゃなかったの…」

 その瞳は悲しげに歪んだ

 少しだけ、潤んでいる

 

「…私、仕事とか、プライベートとか、ほんとに、色々うまく行ってなかったの…

 仕事でも、人との話がうまく広がらなかったり、楽しませてあげられなかったり…

 彼氏とうまく行かないし…友達ともうまく話せないし…」

 

(ありきたりな悩み…こんなことで泣くなんて…

 どうしてこんなに…)

 

「私…どうしてこんなに弱いんだろう…っ…」

 伊織は少し、嫌なことが重なり続けてしまってうまくいいことを見つけ出せなくなっていた

 

「…ほんとに…小さな悩みなのに…」

 そう言ってもう言葉も出なくなってしまう

 

 すると凜音が口を開いた

 「…悩みに大きいも小さいもないです」

 その瞳は伊織のことを真っ直ぐ見つめていた

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