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絶滅危惧種は恋をする  作者: ななな
3/25

かわいいとは

はしっていた自転車の目の前に立ちふさがった女性

彼女の名前は南條伊織で…!?

 この季節になると、都心の方は暑く、避暑地として田舎、というか山奥に来る人はいると聞くが

 

「何もないです」

 

 ここは田舎だ

 

「…コンビニは?」

 

 ど田舎だ

 

「…ここからだと…だいたい4キロくらいです」

 

 ガーン

 と音が出そうなくらい肩をがっくりと落とす女性

 

(…どうしよう、この人困ってる

 ここからだと家が近いけど、この人安全な人なのかな)

 

 などと思案していると、今朝礼子が言っていた言葉を思い出す

 

 『人には親切にするんだよ…』

 

(…ばあちゃん…)

 

 凜音は何かを決意した

 そして女性に向かって言う

 

「あ、あの、うちはここから1キロくらいで着くので…

 …えと、暑い、ので…涼しいところで、」

 

 言おうとしたが言葉がまとまらずあわあわしてしまう

 すると目の前の女性が瞳をキラキラさせて凜音に近づいた

 

「家につれてってくれるの…!?」

 

 凜音はこの人の察しがよくて助かった

 

「…はい」

 

 *****

 田んぼに囲まれた道を

 自転車を引く大学生の青年が一人と

 隣に女性が一人

 

 あたりはもう夕焼け色に染まっていた

 

「へぇ~、大学生1年生か〜

 まだお酒飲めないなんて可哀想」

 

 しばらく話していてこの女性についてわかったことについてまとめると

 ・南條伊織なんじょういおり

 ・27歳社会人

 ・職業ネイリスト

 ・独身

 ・ここに来た理由は傷心旅行

 ・付き合っていた彼氏に振られた

 ・男運がとことん無い

 ・お酒が好き

 ・迷子になった

 ・2週間位の滞在予定

 

 以上である

 

 そして相手のことばかり聞くのは流石に申し訳なくなり、凜音はたどたどしい日本語で伊織に自分のことを話した

 

「お酒…」

 お酒が飲めないことについて可哀想なんて言われたのは初めてで、正しい返しが見つからない

「でも、貴方ってお酒苦手そう」

 謎の偏見で診断されてしまった

「…はぁ」

 もうなんと反応したらいいのか

「…ねぇ、凜音君って感情薄そ〜」

 またもや謎の偏見である

 でも、

 

「…そうですね」

 

 本当の事だ

 

 いつもぼーっとしてると思われてしまったり

 話聞いてなさそう、心の底から喜んでるの?、今どんな気持ちなの?、凜音ってわかりにくいよな、

 

 なんて言われたこともあった

 

 だからこの女性もきっと僕のことをそんなふうに思っているのだろう

 思ったことをすぐに口に出しそうなこの人は面と向かって言ってくるのかな

 なんて考えてしまう

 

 すると伊織は凜音の顔をのぞき込んでこう言った

「なんか、そういうのかわいいね」

 そう言って微笑んだ

 

「…」

 凜音は黙りだして、自転車を引きながら歩いていた足を止めてしまい、下を向いた

 

(…か、かわいい…?)

 何だその言葉

 自分の知っている言語かどうかすら怪しくなってゆく

 初めて他人から言われたその言葉の意味が

 思い出せなくなる

 

(か、可愛いって…猫とか、見たときに言うもので…)

 

 思考を巡らすこと10秒ほど

 すると凜音の唇が震え始めた 

 

(な、な、な、)

 

 

「な、何言っとる…」

 

 独り言の癖か言葉として出てしまった

 しかし凜音は今そんなことを気にも留められず

 

 出してしまった言葉とは裏腹に、

 頬を赤く染めていた

 

 伊織の顔が見れない

 とりあえず、歩き出す

 

(そ、そんなこと…言われてもどう答えていいかわからん…)

 

 もう耳まで赤く染まっている

 

 すると伊織は瞳をキラキラさせて

 

「え!?なにそれ方言?」

 

 なんて言ってから

 

「かわいい!」

 

 なんて言った

 

 天音の顔は更に赤くなってゆく

 

「凜音君…!かわいい…!かわいい!」

 

 めちゃめちゃ連呼してきますやん

 

 伊織は凜音のほっぺを両手で包むようにムギュッとしながら

 瞳を輝かせて、笑顔でこのあと何度も「かわいい!」と言ってきた

 

(ばあちゃん…この人、やばい人だ…!!)

 

 そう思ったときにはもう家についていた

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