その後の話「黒崎店長と猫」
黒崎店長は最近飼い始めた猫の事で頭の中がいっぱいのようだったー
凜音がバイトのある日のこと、今日も今日とて厨房の仕事だけを終わらせて、凜音が閉店後の掃除をしているのを眺めている黒崎はおもむろに口を開いた
「…凜音君ってさぁ〜」
青みがかった瞳は憂鬱そうに外を眺める
「僕の好きな子にちょっと似てるんだ…はぁ…」
黒崎の重々しいため息に対して凜音は適当に聞き流しつつ、
「そうなんですか…どんな方なんです?」
と問うた
本当は興味は無いが、何となく聞いてみることにした
黒崎は瞳を閉じて好きな子の事を考えながら言う
「漆黒の毛は凜音君の髪みたいにふわふわでさ…瞳がキュルンってしててさぁ…声も仕草も全部食べちゃいたいなぁ〜」
緩んだ口元が弧を描いていた
凜音は若干の恐怖を覚えつつ、
「今はどんな関係なんですか?」
と少しだけ気になり出したので聞いてみた
「…今は…僕がご飯を…食べさせてあげる関係かな…」
少し気色の悪い笑い方をしながら言うので凜音は黒崎が何か犯罪に片足を突っ込んでいるのかと不安になりだした
「それって…どういう…?」
凜音は布巾でテーブルを拭く手を止めてそう聞いた
すると黒崎は自分の発言を振り返り、
「…あ、違うよ?そういう事じゃなくてね」
と言うとスマホを取り出して何やら画面を指でスクロールしている様子
その手を止めると、スマホの画面に映る画像を凜音に見せた
「猫ちゃんの話だよ…この子、可愛いでしょ」
画面には可愛らしい猫が餌を食べている画像が映っている
凜音はなるほど、とほっと胸を撫で下ろした
「…名前とか付けたんですか?」
と、手の動きを再開すると凜音は何となく聞いてみる
「それがこの子に見合う素晴らしい名前が思い浮かばなくてさ…あ、凜音君も考えるの手伝ってくれるかい?」
黒崎はキラキラとした瞳で凜音のことを見つめた
期待している様子だ
「…え」
凜音はしまった、そうきたか、と思うと名前について聞いたことを後悔した
まあ聞いてしまったのは自分なのだからと凜音は
「…が、がんばります」
と答えた
すると黒崎はやったー、とガッツポーズをキメる
その様子を見て凜音は一瞬だけ微笑んだ
「…どうしたの?」
と黒崎はそれを見逃さなかったが、凜音は
「いいえ」
と微笑みながら答えた
その視線は、引っ掻き傷だらけの黒崎の手を見つめていた
(あ、嫌われてるんだ…好きな猫に)
何故か一方的な愛を拒まれ続ける黒崎の様子を用意に想像できてしまった
(名前ぐらいは…いいのを考えてあげないと…)
猫側のことを可哀想に感じた凜音は名前をちゃんと考えることを心に決めた




