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絶滅危惧種は恋をする  作者: ななな
21/25

ネイリストの奇跡

凜音が父から離れて次に行く先、それは、伊織が凜音に会わせたいとある人物の元だった─    ※2000字超えてしまいました

 凜音が父から離れて伊織の元にやって来る

「…」

 その立ち振舞も、背中も、断固とした意思があったが、でも表情は少しだけ儚げだった

 瞳がまだ、揺れている

 父に申し訳ないと思っているのか、自分の選択を後悔しているのか

 伊織はそれを見て凜音の手を握った

 温かい手が、凜音の心を温める

「…伊織さん…僕…」

 泣き出しそうな瞳が、伊織を見つめる

 すると伊織は手を引っ張って歩き出した

「…」

 凜音が理解できていない様子でとりあえず従っていると

 伊織は凜音の瞳を見つめて

「凜音君…泣くのはまだ早いよ」

 その瞳はもう未来が見えていて、凜音はなんとなく安心する

「君には会って欲しい人がいるんだよ」

 凜音は頭の上に疑問符を浮かべたまま引っ張られていた

 

 *****

 慣れない土地で凜音は周りをキョロキョロを見渡す

 そこで待っていろ、と伊織に言われ、おとなしく待っていた

 ここは橋の上

 もう日が暮れかかっている

 空が温かい色味を出しながら、少しだけ切なくなる雰囲気を醸し出す

「凜音くーん!!」

 ようやく反対側から橋を渡って帰ってきた伊織を見て凜音はほっとした

 すると、伊織の後ろからゆっくりと歩いてくる人影が見えた

「…」

 凜音は伊織の方を見る

 伊織はそんな凜音に

「…君に、会わせたかった人だよ」

 と言って微笑んだ

 

 その人影が近くまで来たときに

 凜音は息を呑んだ

 

 嗚呼人はきっと

 こういう時に自然とわかってしまうのだ

 

 分かる

 だって心が言っている

 

 懐かしいと、泣いている

 

 体も言っている

 だって意図せず泣いている

 

 あぁ、記憶がなくても、姿を覚えていなくても

 

 分かるものなのだ

 

「…か…母さん…?」

 時がゆっくりと流れる

 同じ瞳で、同じ髪色で、何よりも

 

 同じ涙を流す人

 

「り…と…」

 嗚呼そうだ

 やっぱりわかった

 

 伊織は凜音に優しく説明した

「…この方、多分凜音君のお母さんでね、私、ネイリストって言ったでしょ?…でね、」

 

 伊織の話の内容はこうだ

 

 まず凜音に出会ったときから既視感を感じていた

 気のせいだと思っていたが、礼子から聞かされた凜音の母親の話の内容をヒントに、少なすぎる手がかりの中から、気がついたことがあった

 

 伊織は仕事柄客と話をするとこが多い

 そして秘密を知ってしまったり、明かされたり、深い記憶を話されたりすることもあるのだ

 

 だから

 

『…私ね、何か、忘れてきてしまったの』

 

 そんな客が一人いた事を思い出した

 とても綺麗な女性で、でも儚げで、それでなおかつ不思議な話をする、常連客だった

『記憶があるのは15年くらい前からで、一番最初の記憶は、病室のベッドの上から見えた電気の灯りなの』

 

 あぁ、もし違ったとしても、と

 

『お医者様がね、記憶喪失だって

 病気だって仰ったの…私、多分ある日急に記憶がなくなってそのまま親切な人に病院に連れて来られたのよ…』

 

 常連客だから名刺を貰っていて、

 その番号に掛けるか、掛けないか考えていて、

 

「それでね、凜音君、私

 自分らしく行こうと思ってね、」

 凜音はもう視界が歪んでしまって伊織の声しか聞こえない

 涙で歪んだのだ

「…君の家族の事だから、干渉しちゃいけないって思ってたけどね、私、私らしく、図々しく

 “私も凜音君と礼子さんと家族よ”って思ってね、」

 

 凜音は自分の嗚咽に気が付かないまま伊織の話を聞いていた

 そして強く涙を振り払って母親を見つめた

 目の前の女性は儚げで、弱々しくて、

 でもどこかに、強さがあった

「…私…思い出したわ…わた、…し、…」

 しかし彼女も涙を流していた

 欠けてしまっていた、いつも足りていなかった置き忘れた自分の記憶を取り戻して泣いている

 後悔しているのだ、

「り…と…私…ごめんなさい…」

 

 嗚呼でも…

 凜音は彼女を見てすべてを決意した

 

「…病気なら、仕方がないです…」

 あぁ、泣かせたままなのは酷く心苦しかったけど、今言わないと、

「だから、僕達…会うのはこれっきりにしませんか」

 母と子供

 別れるには少し早いかも、でも、

「僕には、大切なものがあって、守りたい人もいて、僕なりの幸せがあります

 そして、あなたにも同じように守りたいものが、あるんでしょう?」

 凜音はその視線を彼女の左手の薬指の指輪に向けた

 

 もうきっと、あなたにも新しい帰る場所があるんだ

 

「…」

 女性はそれを聞いて更に泣いてしまいそうな様子だったが、

 凜音と同じように涙を強く振り払って不器用な笑顔で言ったのだ

「…はい…

 

 私らしく、生きるために…

 凜音も…凜音らしく…生きるために…」

 

 凜音は先に背を向けてもと来た道に歩き出す

 女性もそれを見てから、凜音とは反対側に歩き出す

 

 ひどく短かった親子の対面

 

「…っ…」

 ゆっくりと橋を渡って、太陽が沈んだ時、

 凜音は膝から崩れ落ちた

 もう女性は遠くにいて、それは届かない

 その泣き声は届かない

 

 でも、

 

「凜音君…っ、!」

 

 それを聞いて優しく駆け寄ってくれる人が、

 一緒に泣いてくれる人が、僕にはいるんだよ

 

 

「…っ…ぁぁ…さ、よなら…」

 

 いるんだよ

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