“大切”の価値観
「愛してるよ」やっとそう言えた凜音は礼子の回復を祈りながら眠りにつき、凜音が眠りについたあと、伊織は礼子と自分がどんな会話をしていたのかを語りだす…
「愛してるよ」
ありきたりだけど、めったに人はそれを言おうとしない
でも、いつか言おうと思っていたこと
そう言って凜音は夜中の1時くらいまで礼子の手を握り続けて眠ってしまった
伊織は凜音の頭を撫でながら、眠る彼に優しく語りかける
「君のおばあちゃんはね、君のことが大好きで、君のことしか、話してくれないくらい大好きで…」
いつも凜音はこんな時期があった、とか
凜音の好きな食べ物は、とか
凜音が生まれた頃は、とか
凜音が何歳のときに、とか
あの子は可愛いの、
あの子は優しいの、
あの子は私の誇りなの、
あの子に
幸せになってほしいの、笑ってほしいの、
って、
「礼子さんのことを聞こうと思っても全部君の話にされちゃうんだよ…?」
伊織は泣き腫らした顔で眠る凜音の寝顔と、小さくも息をする礼子の顔を見ながら微笑む
「君も、ようやく礼子さんに大好きだよって、伝えられたから、」
「君が、頑張ったから、私
君が笑ってくれるように頑張るよ」
伊織はそう言って二人の幸せを願いながら二人の手を握りしめていた
夜明けを確認して、凜音が起きて、朝が来て、隣人の三枝さんが来て、立ち去って、
他にもいろんな人がやってきた
「君のおばあちゃん、愛されているんだね」
伊織は凜音にそう言うと、凜音は嬉しそうに微笑う
「…はい…」
そしてまた一人、白いドアをスライドさせて部屋に入ってくる者がいた
革靴の音が響いた
スーツの擦れる音がする
少し早歩きの、背の高い男性が入ってくる
「…凜音」
優しい声で凜音のことを呼んだその人は
「…父さん…?」
凜音の心を揺らした
父さん、と呼ばれるその男はおもむろに凜音の腕を掴んだ
「父さんっ…ばあちゃんが…!」
そう言って祖母のことを説明しようとしたが、
「もう聞いたよ、大変だ…」
そう言って病室から凜音を連れ出そうとする
「どこ…行くの…ばあちゃんは…」
と聞くとその男は手を離して凜音のことを見つめる
「凜音、今から言うことを聞いてくれないか」
そう言ってからスマホで時間を確認して、
「凜音はこれから父さんと日本で二人で暮らすんだよ
おばあちゃんがこうなってしまったら凜音は一人では生きていけないからね、
でも不自由にはさせないよ、父さん今まで凜音の事を想って沢山働いてきたから、凜音のしたいことができる
そうやって二人で暮らすんだ…わかったかい?」
口調は極めて優しく、凜音の事を大切にしようとしているのを感じる
「…じゃあ…ばあちゃんは…?」
と凜音が泣きそうな声で言うと、凜音の父は眉を下げながらは小さい子に話しかけるように凜音に言う
「おばあちゃんは、このまま入院するんだよ、退院しても、凜音と父さんは二人で暮らす、1ヶ月に一回は会いに行こう、それでいいかな?」
まるで交渉しているみたいに話して、凜音の腕を再び掴み、半ば強引に凜音を病室から連れ出して消えてしまった
伊織はその光景を呆然と眺めることしかできなかった
「…え…凜音…君…?」
『…じゃあ…ばあちゃんは…?』
凜音の泣きそうな声が頭の中で反芻した




