優しいキス
目を見て話せば今頃うまく行っていたのかもしれないと、自分の不甲斐なさにまた苦しくなる伊織
そんな伊織に対して凜音は優しいキスをした─
温かい手が伊織の腕を掴んだ
伊織は驚いて顔を上げた
しかし目の前には誰の顔も見えず
次の瞬間
「…ぇ…?」
伊織は自分に何が起こっているか理解できなかった
そんな伊織の涙の跡のついた頬に凜音が優しくキスをしたからだ
そして凜音が小さな声で優しく言う
「大丈夫…」
「り、凜音君…?」
涙なんてひっこんでしまう
でもなんだかとても落ち着く
そして凜音は伊織と目線を合わせて問う
「何があったんですか」
優しい声色で優しく問う
伊織は落ち着いた様子になって言う
「…私、もっとちゃんと目を…合わせてたらうまく行ってたかもしれない…
もっと、そうしてたら…今頃私は…変わってたのかも…」
すると凜音は眉を少しだけ下げた
少しだけ、寂しそうに言う
「…もしそうなってたら…伊織さんはここに来てなかったですか?」
それはそうに決まっている
だって彼女がここに来たのは心を癒やすため
うまく行ってたら今頃おしゃれなカフェとかに行っていたはずだ
「…うん…そうだけど…?」
伊織がそう答えると
凜音は悲しそうに言う
「…もしそうだったら僕は…伊織さんに会えてなかったんですか…?」
伊織はそんなことを言う凜音の表情に息を詰まらせた
「凜音…君…?」
悲しい瞳
窓からの光がどんなにその瞳を照らしたって彼の瞳は悲しそうだ
「…僕…僕…それは…やだな…」
小さな声で彼の本音がぽつりとこぼれた
伊織は瞳を大きく開いた
(目の前にいるこの子は…まだ私より年下で社会人でもないし、高校を卒業して大学に入りたてみたいなもので…)
凜音は少しだけ瞳を潤ませている
(…あぁ…私…この子を悲しませてる…
この子は私と出会えて良かったって思ってくれてた…)
伊織は凜音の頬に先程凜音がしたように優しくキスをした
(…ここに来るためにいろいろあったけど…確かに…苦しかったし悲しかったけど
ここに来たことを後悔なんてしてない…)
伊織は優しい声で凜音に言う
「…ありがとう…大丈夫…」
(私…辛いことも…苦しいことも…ここに来るため大切なものなら…)
凜音は驚いたように瞳を開く
「…凜音君…私やっぱり…」
(そういうこと全部…大切にできる気がするよ…)
「君に会えて、良かったよ」
伊織は精一杯の笑顔で凜音に伝える
「…君が私に会えてよかったって言ってくれるなら…私、ここに来てよかっ…」
言いかけて言葉が止まってしまったのは
「…よかったぁ…」
凜音が伊織を抱きしめたから
安心したように何度もよかった、とつぶやく凜音
伊織は微笑んで凜音の頭を撫でる
「凜音君…いつもありがとう」
彼女は小さくそう呟いた




