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花天月地  作者: 功野 涼し
呪い成就の木

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降る者

「こいつは桐の願いに応えて出てきた奴なんです。

 願いを成就した見返りに桐の命を狙ってますけど、私がなんとか食い止めますから大丈夫です!」


 背中を向けたまま牡丹が桐に話しかける。よく見ると背中は切られ血が流れているのが確認できる。

 桐を庇った際に切られたのだろう、脈動に合わせ鮮やかな血が流れ出てくる。


 太い木の枝を杖の代わりにして、肩で息をしながらなんとか立っている牡丹は、僅かに身を屈め戦闘体勢をとり、刀を構える落武者と対峙する。


 落武者が振り下ろす刀を牡丹が横に飛んで避けると、杖にしている木の枝を投げつけ、その杖が刀で真っ二つにされる瞬間に合わせて左手の爪で切りつける。


 相手がよろけると身を翻し、桐の元に素早くやって来る。杖がなく近くの木に手を掛け体を支えながら微笑み掛けるが、額に汗を掻き髪を乱すその表情からは辛さが伝わり痛々しさの方が強い。


「さあ、立ってください。私ではあれには敵わないですから、桐は今のうちに逃げてください」


 まだ腰に力も入らず足が震える桐は、声も出せず必死に首を振って無理だと否定する。


「お願い、立ってください。じゃないと死んでしまいます!! 私では桐を運べないですからお願いです!」


 牡丹が泣きそうな表情で必死に訴える。だが無情にも牡丹の右肩から刀の先端が顔を出し、血が散ると血飛沫が桐にかかる。


「ぐぅぅ……き、桐、逃げてここは私が押さえますから」


 牡丹が自分の体から突き出した刀の先端を握ると、自ら更に深く刺し落ち武者の動きを止めようとする。

 だが、手を傷つけながら抑え込もうとする牡丹の行動も虚しく、落武者は牡丹を足で蹴って刀を引き抜くと血を払う。


 土の上に鮮やかな赤い点が線を引く。


 蹴られた牡丹はよろけながらも桐を攻撃から守ろうと覆い被さる。


 震える牡丹に抱き締められた桐は、熱いほどの熱を牡丹から感じた瞬間、自分の意志だったか無意識だったか定かでないが、牡丹を抱き締めると引き寄せ、自分が牡丹に覆い被さる。


 互いが庇い合う様子など頭のない落武者にとっては見えるわけもなく、大きく一歩踏み込んで無情にも振り下ろされる刀から身を守る為に桐は体を丸める。


 左肩に激しい衝撃が走る。


 痛いとかじゃなく全く意味の分からない衝撃と、熱さが桐の体を駆け巡る。


 痛みと熱さに悶えながらも桐は牡丹に覆い被さり、落武者を睨み付ける。


「わ、私が……私が悪いの! あなたは私が呪ったから出てきたんでしょ! 対価を払うのは私だから! だからこの人は関係無いの!」


 桐の言葉など聞こえていないのであろう、落武者は両手で刀を握り大きく振り上げる。

 立つことも出来ない桐はせめてもと牡丹に覆い被さり、目をギュッとつぶって最後の瞬間を待つ。


 そのときだった、目をつぶっていても感じる事の出来る光が空から落ちてくると、衝撃が地面から伝わり強い風圧が体を押してくる。


「まったく、助けるなんて柄じゃないのに」


 目映い光が落ち着き、林の薄暗さが戻るとゆっくりと桐が目を開ける。

 目の前には背中に光る羽を広げた橘花が近づいてくる。


「えっと桐さん動け……なさそうね。まあいいや、じゃあそこにいて」


 橘花はそれだけ言うと落武者の方へ振り向き、いつもの歩調で歩いて向かっていく。

 向かってくる橘花の頭を切らんと、縦に振り下ろされる斬撃を、最小限の動きでさらっとかわし、右手に白く光る魔方陣を出現させる。


キトゥン(子猫)


 魔方陣から出てきた子猫と呼ばれたその真っ白な銃は、鮮やかな赤の線が引かれ、持ち手に小さな黒い猫の装飾が施されている。美しい銃は、橘花が持つとより美しさを際立たせる。


 桐はテレビや映画でしか銃の存在を知らないが、橘花の持つ銃が普通とは何か違うのを感じる。


 橘花が刀を構える落武者を冷たい瞳に映し銃口を向ける。

 リーーンと銃声とはほど遠い音が銃口の煙と共に数回放たれた後、橘花は背中の羽を大きく広げ、一瞬で詰め寄ると落武者を蹴り飛ばす。


 あり得ない程吹き飛ばされた落武者が木にぶつかり、力なく地面にずれ落ちると、そこに向かって更に数発打ち込まれる。

 銃弾が撃ち込まれる度に体の一部が散り灰色の霧が舞う。


 落武者が刀を地面に刺し立ち上がろうとするのが、放たれた銃弾が火花を散らし刀をへし折り、立ち上がることが叶わなくなった落武者は地面に跪く。


プレイフル(じゃれる)


 橘花が手をかざし、呟くと化物の体の中に残る銃弾や、貫通して外に落ちていた銃弾がぼわっと淡く光震え始める。震えは大きくなりやがて激しく跳ね縦横無尽に飛び回ると、互いが跳ねぶつかり合い火花を散らし始める。


 そしてぶつかる度に火花と チリーン チリーン と鈴の透き通る音を奏で、ぶつかる度に散る小さな火花が美しく幻想的な様子を見せる。


 丸い鈴は猫がじゃれるようにピョンピョン跳びまわり、時にぶつかって火花を散らし、鈴の幻想的な音を奏でながら落ち武者の体を破壊していく。


 銃弾の鈴がじゃれあう様を橘花の目が冷たく映す。


「血も出ないヤツなんてやる価値も無いわね。

 大方大昔に低級な魔物の慣れ果てと人の魂が混ざって、たまにくる祈願者を贄に今日まで生き延びたヤツでしょうけどここで終わりね」


 落武者は銃弾の戯れで鈴の音色に包まれながら煙をあげて消えていく。


「さてと桐さん……あぁ結構傷深いわね。まずは病院に行きましょうか」


 橘花が桐を抱き抱え連れて行こうとするが、痛みで顔をしかめながらも桐が橘花を掴み引き留める。


「き、橘花さん。牡丹さんも連れて行って下さい」

「牡丹? この娘?」


 橘花が苦しそうに息をする牡丹を見ると肩に担ぎ上げる。


「まっ、気まぐれついでにこの娘も助けてあげるわ。だからとっとと病院に行きましょう」


 その言葉を聞いて安心したのか桐はすぐに意識を失ってしまう。



 ***



 次に気が付いた時は救急車に載せられていた。そして再び意識を失い次に意識が戻ったのは病院のベットだった。


 桐が自分の置かれている状況を確認するため辺りを見回す。おそらく病院の個室、左腕には点滴が繋がっている。


「起きたぁ?」


 突然声を掛けられ桐が飛び上がりそうになる。


「そんなに驚かないでよ。命の恩人に対して失礼な態度をとらないでほしいものね」


 薄暗い病室でベッドに横たわる桐の隣に立ち、橘花は腕を組み憤慨だと態度で示している。だが、表情は怒っているわけではなく、柔らかく微笑み優しさを感じられる。


「色々と混乱してるだろうけど、明日から警察とか訪ねて来るだろうから簡単に説明するわよ。

『桐さんが、学校を休んだ日。近くのコンビニに行く途中、噂の通り魔に襲われました。突然だったので何も覚えていません』とでも言ってね」

「え、え?」


 混乱する桐に橘花が小さくため息をつく。


「いい? 人を呪ったら化物が出てきて襲われました。って言っても誰も信じないでしょう。だからさっき言った感じで答えてね」


 橘花が椅子から立ち上がる。


「さて、私は帰るからお大事に」

「ま、待って下さい。牡丹さんは?」


 桐が必死に手を伸ばして訴える。


「あの娘なら私が預かってるから安心して」

「よかったぁ。橘花さん、ありがとうございます」


 涙を流しながらお礼を言う桐の頭に手を置いて微笑む。


「そうそう、お金取るからね。でも牡丹さんに請求するから安心して。それじゃあね」

「え?」


 驚く桐だが、聞き返す間もなく橘花が手を振りドアを開けて去っていく。

 残された桐は混乱したまま夜を過ごし、次の日から警察の事情聴取や両親から怒られる日々が始まるのだった。

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