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花天月地  作者: 功野 涼し
呪い成就の木

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罪悪感

 夏のじめっとした暑さで起こされる。肌にペトっとした感触が気持ち悪く、頭も汗をかいていて長い髪の毛がちょっと鬱陶しく感じる。

 暑さで重くなった体を起こし、部屋のドアを開けると階段を下り、一階のリビングの奥にある台所へ行く。


 冷蔵庫を開け、ポットの麦茶をコップに灌ぐと乾いた喉を鳴らして飲み干す。

 冷蔵庫の中には、昨日のおかずの残りにラップがかけられて、お米は炊くか冷凍を使え、お味噌汁がいればレトルトを使えと書いてあるメモ書きが貼ってある。


 薄暗いリビングのカーテンを開けて光を取り込むと、リモコンを持ちテレビの電源を入れる。


 ソファーの前にあるセンターテーブルに、ペットボトルの紅茶を持ってくると、ボンヤリとテレビの画面を見つめる。

 ワイドショーが今後流行る雑貨特集をやっていて、リポーターの人がお店に行って雑貨の紹介や、クイズなんかをしている。


 画面の左上の時刻は『9:15』が表示されていて、本当なら学校に行ってる時間だ。


 桐は今日学校を休んで家にいる。


 ペットボトルの紅茶に口を付けると、昨日の夜のことを思い出しながらソファーに深く座る。


 ――橘花に送ってもらった後、詳しい内容までは言ってないが、母に学校でいじめられている事を話した。

 もう学校に行きたくないのも伝えたが、答えはいつも通り「取り敢えず卒業まで頑張って」だった。


 遅くに父が帰ってきて話したが「卒業はしなさい」と言われて会話が終わってしまった。


 今日休むのにも結構渋い顔をされた。


 ふと、昨日橘花に言われた事が頭を過る。


「何か違う方法を考える。卒業だけなら通信でも良い。別の道。でも厳しい道。逃げる方が力を使うが命を削るよりマシかも」


 橘花に言われた言葉がぐるぐると頭の中を回る。


「私って何がしたいんだろう? なんでここにいるんだろう?」


 誰に言うでもなく疑問を声に出すと、ソファーでごろんと横になる。


 桐は自分の事が嫌いだ。いつも自信がないし、言いたいことも言えない。声も小さい。

 本当はやりたいのに遠慮して相手に譲るし、他人の視線が気になる。


 いじめられても何も出来ない。何かやられてもやり返す力も勇気もない。精一杯の反撃が消えてしまえと木に向かって願うこと。実際それも「やっぱりやめます」と断ってしまう始末。


 橘花にように男の人達を倒す力があればやり返すし、そもそもこんなことになって無いはずだ。


 続いて牡丹の事を思い出す。石を投げられたりしてたって言われてたけどあの人もいじめられてたのだろうか。

 手足の事を考えたら十分あり得る話だ。この世は差別をするないじめるなと言いながら、笑って相手を傷つけてくる人がいる。

 強い人が弱い人をいじめてはいけませんと言ってるのは、上から下への言葉であって被害者の言葉でないのではなかろうか。


 本当に弱い者は声すらあげることも出来ない。自分がそうであるように。


「ここからニュースをお伝えします。昨晩──」


 ワイドショーのニュースコーナーが始まる。いつもなら聞いていないが聞き慣れた単語が耳に入ってきて意識がそっちに向く。


「近く? この制服って……」


 昨晩、女子四人が刃物を持った男に襲われ軽傷だと言うニュースが流れる。そしてモザイクは掛って声は加工されているが、自分と同じ制服を着た子がインタビューを受けている姿を見てピンとくる。


「呪い……」


 一瞬、四人の顔が浮かんで、怪我をしたことに喜んでしまったが、すぐに罪悪感にさいなまれる。もしかしたら自分のせいで怪我したかもと思うと心が痛む。

 ニュースはまだ犯人が捕まっておらず、逃走中なので不要な外出を避け警戒して下さいで終わり、明るいお天気のお兄さんによる天気予報が流れ始める。


 体が中からそわそわするような気持ちになりながらも、自分は関係無いはず、たまたまだと自分に言い聞かせる。


 気が付くと『11:30』 とテレビの左上に表示されている。どれだけ考え悩んでいたんだろうかと思うと自分が嫌になる。


 少し早いけどお昼の準備を始めダイニングテーブルに座り食べる。


 食べながらも考えてしまう。つけっぱなしのテレビから再び女子高生四人が襲われ怪我をしたニュースが流し始める。

 自分の知っている道が写されレポーターの人が深刻な顔をして現場の様子を伝えている。


 たまに通る道に警察の人や報道陣が集まりドラマとかで見るような白線や番号の札が立ててあるのが確認できる。

 そのうち被害者の女子高生がみんな明るく、人に恨まれる様な子達でないというさっき見たインタビューが報道される。


 桐は食器を片付け部屋に戻り着替えると玄関に向かう。


「何にも意味無いかも知れないけど、見に行ってみるだけ」


 自分に言い聞かせるように呟きながら足早に神社の方に向かう。



 ***



 大きな杉の木を見上げる。別に何も変わらない様子にホッとする。


「当たり前か……呪いなんて非科学的なこと」


 今回の事件と自分は関係無いんだと安心して森から出ようとする。

 落ちている木の枝をパキパキ踏みながら進ん行くと、後ろから葉っぱを掻き分ける音が聞こえてくる。歩くというより引きずる音。


 恐る恐る振り返ると、首の無いぼろぼろの鎧を着た異形の者が長い刀を引きずりながら近付いてくる。


「な、なに……」


 突然現れた者の首はないが何か言っている。一人の声でなく何人もの声がバラバラに響く。近付くにつれ最初は聞えなかった言葉が重なり聞き取れてくる。


 ――斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首──


 言葉を聞いて何をしようとしているか理解した桐は、ペタンとその場に座り込み動けなくなる。


「え? なにこれ……」


 その後は口をパクパクさせるだけで声も出ない。首の無い化物が両手で刀を持ち構えると

 右足を踏み込み、桐の首目掛けて刀が振られる。


 ──あ、死んだ──


 桐の頭に最後の言葉が過る。次の瞬間、何かが覆い被された感触を感じる。そしてすぐに浮遊感を感じ、乱暴に地面にぶつかる衝撃が頭を揺らす。


 覆い被さってた物が飛び跳ねるように退くと、桐の前に見覚えのある着物を着た女性の後ろ姿がそこにはあった。

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