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花天月地  作者: 功野 涼し
呪い成就の木
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成就

 月が見え隠れする夜。カラオケボックスから出てきた少女達は夜の道を歌った時のままのテンションを保ったまま騒ぎながら賑やかに歩く。


「いや~~今日も良い一日だった!」

「そう言えば、桐の奴学校逃げ出したなんて笑えるよね~」

「ほんと、あいつさ、ボソボソ話してなに言ってか分かんないしウゼ~~から嫌い」

「だよね。そうそう、あれ、あの写真どうしたの?」


 その問いに一人の少女が笑みを浮かべながらスマホの画面を見せる。


「おぉ! 桐の奴人気じゃん! なに? 一回千円ってめっちゃお買い得!!」

「でしょ。こんな人気者にしてあげたんだから、私に感謝しろってんの!」

「しかもあんたさ、その人気者になってる写真とコメント、桐のヤツスクショして送ったんでしょ。優しすぎっ!」


 少女達は下品な笑い声をあげながら夜の道を歩く。


「こっからどうする? なんか腹へってない?」

「どっか食べ行こうぜ」

「いいねいいね!」


 相も変わらず騒ぐ少女達が暗い夜道を騒がしく彩る。


 ────最初は何か引きずるような音が微かに響く。一人気付いた子がいたが、気のせいだと思って無視してた。

 そのうち段々何かを引きずる音が大きくなると、さすがに皆が気付き、音のする後ろを振り返る。


 布か何かを引きずるような音に混じって、金属が地面を擦る音が響き渡る。


 すぐに走って逃げれば良かったのだろうが、少女たちの恐怖心と好奇心が邪魔をして、音の正体何がなんなのか見たいと言った衝動に駆られる。


 何が出てきてもすぐ逃げれば良い、人数がいるから気が大きくなると言う慢心も手伝って、音の正体を確かめるため、その場に四人の少女は立って暗闇を見つめる。


 ゆっくりと何か近づいてくる。それは段々存在感を濃くし、輪郭を際立たせ、やがてその姿を現す。


 ボロボロのただれた灰色の体に、戦国の武将が身に付ける赤い鎧を着ているが、その鎧もボロボロで右半分しか残ってない。

 右手に刃こぼれした長い刀を握って、先を地面に付け引きずって歩いている。

 体だと思っていたものも、よく見ると沢山の顔が浮き出ていて、口を開きうめき声と共に何かを呻いている。

 そして本体の首が無い。首なしの落武者とでも表現できる外見の者は少女達にゆっくりと近づいてくる。


 近づくにつれ体の顔達の呟きが聞こえてくる。各々の首が同じ言葉を呟いている。段々何を言っているのか明確に響いてくる。


 ──ころす ころす ころす ころす ころす ころす ころす ころす ころす ころす ころす ころす ころす ころす ころす───


 言葉が聞き取れたとたん、少女達は悲鳴を上げながら逃げていく。

 全力で走って後ろを振り返ると、足を引きずって歩き、歩みは遅いはずなのに距離が離れず、逃げ始めたときと同じ位の距離を保っている。


 少女達は皆、死に物狂いで走る。


 既に息の上がってる者、パニックになってる者と、心の限界が近い状態の少女達が振り返ると、落ち武者との距離は離れるどころかすぐ後ろに迫っていた。


 逃げるうちに一人の少女の足がもつれこけてしまい、その場に座り込んでしまう。


「ちょ、待って! 置いてかないで!」


 座り込んだ為に置いていかれてしまい、叫ぶ少女に落武者は静かに長い刀を振り上げる。

 その振り上げられた刀に行方に少女の瞳は釘付けになり、その絶望に染まった瞳から溢れた涙がゆっくり頬をつたう。


 そしてゆっくりと、確実に少女の頭に振り下ろされる刀。


「逃げなさい!」


 突如、黒い着物を来た女性が飛び込んできて、松葉杖で刀を弾く。

 逃げろと言われた少女は恐怖からか未だ意識がもうろうとした表情をして、動く気配がない。


「ああもう! こいつを退けるしかないんですか!」


 左手の松葉杖を握り黒い着物の女性、牡丹は首なしの落武者を睨む。


「全く油断しました。桐が昨日の今日で呪いをかけに来るなんて……文句言ってる場合じゃないですよね」


 牡丹と落武者が間合いを取って睨み合う。


 刀が下から上に向かって振り上げられるのを、牡丹が体を後ろに反らしてギリギリで避ける。刃先が僅かに髪に触れ、切られた髪の毛が宙を舞う。


 髪の毛が落ちる間も無く牡丹は左の松葉杖に体重を乗せ、右足で蹴りを入れる。

 落武者がよろけるのを見逃さず、牡丹は姿勢を低くして、左の松葉杖から手を離し、右足で地面を蹴って弾けると長く鋭い爪を鎧の無い部分に突き立てる。爪が食い込み落武者の体にある顔が苦悶に満ちた表情を浮かべ霧散し、その箇所にはポッカリと穴が開く。


「やっぱり手足ないと、力が入りませんね」


 牡丹の目は瞳孔が大きく開き、鋭い光を放つ。開く口ば裂け鋭い牙を見せ、頭に獣の耳が生える。左手の長い爪は、触れたら切れそうな鋭利な輝きを放っている。


 まるで猫の様な姿の牡丹が悔しそうにぼやく。


「でもあっちも本調子じゃ無さそうですし、なんとかいけますかね」


 落ちている松葉杖を素早く拾うと、落武者に向かう。

 横に振るわれる刀を屈んで避けると、再び松葉杖に体重をかけ棒高跳びの要領で高く飛んで落ち武者を飛び越えると、肘までしかない右手で首を捕らえ背中にしがみつき、左手の爪を落武者の体に何度も突き立てる。


 それなりにダメージがあったのかもがき苦しみ、体を激しく動かし牡丹を振り払う。

 受け身も取れず地面に叩きつけられ、転がる牡丹はすぐに顔を上げ落武者を睨む。

 ダメージが大きかったのか落武者は片膝をついていたが、刀を杖のようにして起きるとゆっくりと消えていく。


「これで願いは成就されてないはず……いや存在が移動してる!? まさか」


 牡丹が慌てて立ち上がり松葉杖を拾うが、下が切られ使い物にならなくなっている。助けた少女を見るとまだ放心状態にあり動けそうにない。


 その子をそのまま置いて、塀や電柱をつたい必死で進むと三人の少女が血を流しながら恐怖で怯えた顔をしているのに出くわす。

 命に別状は無さそうだが傷は深い。一番軽傷の子を揺さぶり、救急車を呼ぶようにお願いする。


「残った力を振り絞って襲ったってとこですか、しつこい奴です。でも、誰も死んでいないから願い事は成就になって無いですよね」


 牡丹は壁をつたいながら闇に消え去っていく。



 ***



「騒がしいから来てみたけど、終わった後みたいね」


 橘花はマンションの屋上に立って下を見下ろす。風に煽られ髪と服がバサバサとたなびく。


「あのネコちゃん、桐と昔関係があったってとこかしらね。ボロボロなのに健気なものね」


 両手を上げて大きく伸びをすると、それに合わせ背中の羽が大きく広がる。


「さて、引っ越しの荷物を片付けないと」


 橘花は背中に淡く光る羽を羽ばたかせフワリとその場を飛び立つ。

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