落
日頃小さな物音でも起きる橘花は桐たちに囲まれても目を覚ます気配はない。
「う~ん、夢がこんな感じだから。こうふわふわ~って、あれ? なんか違うなぁ」
「何をしてるんですか。早くやるのです」
「もぅうるさいなぁ。鏡花は頑張ってるのっ! やろうとしている人にやれって言うとやる気なくなるんだよ」
「人のせいにするとは生意気なヤツです。そもそも鏡花におまかせっ! とか言って自信満々にしてたのは誰ですか!」
「びぃーっだ!」
「にゃにおー!」
「2人とも今がどういうときだか忘れた?」
「がんばるのです鏡花!! 絶対に出来るのです!」
「任せて牡丹お姉ちゃん!! 応援ありがとっ!」
わざとらしく肩を組んで互いに励まし合った後、橘花の額に手を当てる鏡花と腕を振り上げ応援する牡丹を見た桐はため息をつき、目を瞑ったままの橘花に寂し気に笑みを見せる。
「こんなに騒がしくしても起きないなんて橘花さんに何が……」
「どんな強い人でも過去の悲しい出来事、トラウマ、今は会えないけど会いたい人、そんな心の弱いところを、それも寝ていて無防備なときに攻められたら。いくら橘花さまでもずっと気を張ってるわけではないはずだから何百回に一回くらいは隙を見せてしまったのかもしれないの」
鏡に手を入れ何やら探る仕草をしながら話し掛ける鏡花の言葉に桐は頷く。
心配した表情で橘花に目を向けたとき鏡花が声を上げる。
「あっ!? ここっぽい! 繋がったっぽい」
「ぽいっじゃ困ります。ちゃんと繋がったのでしょうね?」
「だいじょーぶ! バッチリだって! 桐お姉ちゃん、牡丹お姉ちゃん出入り口は鏡花が押さえておくから鏡の中に入って!」
その言葉に桐と牡丹が目を合わせると大きく頷き、鏡に片手を入れつつもう一方の手で手招きする鏡花の鏡目掛け牡丹が飛び込む。
鏡の中に消えた牡丹に一瞬驚いた表情した桐だが、異を決した表情で鏡に向かって飛び込む。
「桐お姉ちゃん、ファイトだよ!」
鏡花の声を受け飛び込んだ桐が目を開くと、キラキラと光の粒が弾ける空間を落ちていてやがて下に真っ黒な雲のようなものが広がっているのが見える。
避けるなんてことも出来るはずもなく目を瞑って雲の中に落ちてしまう。意味があるかは分からないが息を止めてぬるい風を受けながら落ちていくと、急に肌に触れる風が冷たくなる。
目を開けると舗装された地面が広がる。
「じっ地面!? うそっ落ちる!」
手足をバタつかせ落下に抵抗してみるが効果があるわけもなく迫る地面に涙目で叫ぶ桐を横から飛び出した牡丹が受け止める。
「あ、ありがと……ってどうしたの? 牡丹なんかボロボロじゃってわぁ!?」
「お、お礼は後です。一先ず逃げますよ」
「え? どどういうことってえーーっ!?」
桐の言葉を遮り抱えたまま走り出す牡丹の肩越しに見えたのはこっちに向かって走ってくる少女の姿。
その姿は桐がよく知っている人の姿だけども見た目は幼く、そして何よりも楽しそうにきゃきゃっ笑いながら手に持った銃を真上に向けて発泡しながら走ってくる。
「どっ、どうしてこうなってるの?」
「私にも分かりません。降りてくるなり突然撃ってきたのですよ」
桐を抱えたまま走る牡丹を飛び越した少女が軽やかに着地し逃げ道を塞ぐ。
「もう一人増えたっ! ねえねえお姉ちゃんたち、私と遊ぼうよ!」
2人が日頃、橘花と呼んで慕う女性によく似た少女が向ける銃口と殺意を受け桐と牡丹は息を呑んでしまう。




