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花天月地  作者: 功野 涼し
夢喰らう

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47/48

 増島(ますじま)祐実(ゆみ)は毛布を被り中で震えていた。


 天里に桐を泣かせろと命じられた千恵が遺体となって発見されたことを知った朝。重い足取りで学校へと向かうと机の上に座っている星咲(ほしざき)天倫(あまり)が不機嫌そうな顔で爪を磨いていた。


 祐実と目が合うなり一言。


「千恵死んじゃったらしいじゃん。口先だけのトロイヤツだったけど、ここまで使えないなんてね。ま、千恵も苦手な勉強とかしなくてよくなったし喜んでるかもね」


 予想にもしていなかった言葉に声を失って立ちすくしてしまう祐実に天倫は更に一言付け加える。


「祐実はさ、そんなことないよね? 期待してるからねっ」


 机から下りるとすれ違い様に笑いながらポンと肩を叩いてその場を去って行く天倫に返事をすることは出来ず、暑い夏だと言うのに震えが止まらなくなっていた。


「増島さん大丈夫? 顔が青いけど気分悪いなら保健室へ行きなさい」


 国語の授業中担当の先生から言われ自分が青い顔をしていたことを知る。不思議なもので人から指摘されると自分が調子悪いんだと意識してしまい、更に気分が悪くなってしまう。

 吐き気まで催した祐実は保健室の先生の判断により家に帰らされることとなり今に至る。


 何かは分からない、分からないが天倫は千恵になにが起きたかを知っていている。でないと千恵に「使えない」や自分に「期待している」など言わないはずである。

 冷静になって考えれば考えるほど天倫の言動とここまでのことが繋がり、恐怖で震えが止まらなくなる。


 毛布の中でベッドに顔を埋め擦りつける。


 ── 一体いつからこうなったのか? 高校に入るまで人間関係でこんなに悩んだことはないはず。天倫に出会って桐をみんなで笑いものにして……桐、桐と関わってから?


 シーツがしわになるのも構わず額を擦りつけていた祐実は『桐』と言う名前が頭に浮かんだ瞬間、振っていた頭を止め暗闇の中で闇をじっと見つめる。


 ── そうだ桐にちょっかいを出して笑いものにして、そこから少しずつおかしくなってきた気がする。

 あれは苛め……そうかもしれない。でもあのときの私にはああする以外の選択肢はなかった。そうしなければ自分が天倫のターゲットになって、死ぬまで遊ばれるおもちゃとなるしかないのだから。


 桐をみんなで苛めた後、桐が泣く様子を天倫が楽しそうに話して最後に決まって


「桐のヤツいつまで持つかな? どんな死に方選ぶんだろ? 楽しみっ」


 そう言いながら本当に楽しそうに笑っていた。その時一緒になって笑っていた自分を思い出し体の芯からうすら寒くなる。


 ── あの時出会った桐は楽しそうに買い物をしていた……楽しそう? なんで? 学校を休学して塞ぎ込んでまともな人生は歩めない人間になっていると思ったのに、なんで楽しそうにしてるんだろう? おかしい……いや、悪いのは私……いや、だけどもなぜ私が苦しんでいるんだろう?


 桐は楽しそうに表を歩き、自分は毛布の中で震えている。


 ── おかしい! 不公平! 私だけが苦しむのは違う! そうだ、天倫は私に「期待している」と言った。つまりは千恵が出来なかったことを私がやればまたいつもの学校生活に戻れるということ!


 体を起こし毛布から顔を出すと暗闇が少し和らぐ。


 薄暗い部屋には見慣れた自分の部屋が広がる。やることが決まればなんだか心が軽くなる。希望を感じるとはこのことなのだと実感する。


「希望か、いいね」


 突然隣から声がして驚き振り向くと、黒いスーツを着た少年がベッドの淵に座って微笑んでいる。

 なんで見たこともない少年がここにいるのか? それよりも少年の整った顔立ち、水のように流れ煌めく青い髪に紫の澄んだ瞳に目を奪われる。


「頑張ろうってする女性って素敵だな」


 そう言って顎を持たれ近づけられる顔に嫌な気持ちなど感じず、寧ろ何かを期待して受け入れる。


 唇に触れた初めての感触は自覚する間も無くすぐに離れてしまい、寂しくなった唇にもう一度感じたくて少年の目を見つめてしまう。

 目に熱を持って瞳が潤んでいるのを自分でも感じ、どんな表情しているかは分からないが頭の芯から込み上げる熱にふわふわした感覚に身を委ねることにする。


 少年は優しく微笑むと祐実をの腰に手を回して引き寄せられると今度はハッキリと唇の感触を味わう。

 長く唇を塞がれ、空気を求め半開きになった口に入り込んでくる艶かしい感触に一瞬身をすくめるがすぐに受け入れる。

 口の中を這う感触に痺れる頭、不慣れながらも辿々しく自らの舌を少年に伸ばす。


「んっ!?」


 祐実が伸ばした舌に少年が答えてくれた感触に喜びを感じたのも束の間、快楽が一瞬で激しい痛みに変わる。だがすぐに頭の中が真っ黒になって何も分からなくなってしまう。


 少年はしばらく至福の笑みで咀嚼した後、口を動かすのをやめ喉を鳴らし何かを飲み込む。口もとから垂れた赤い液体を手で拭ってベッドに目をやる。


 ベッドの上では、仰向けで倒れ白眼で口から血を溢れさせる祐実が体を激しく痙攣させていた。


「君の一部(タン)をもって悪魔との契約完了! 依頼主のあまりんの期待に応えて頑張ってね。うん、大丈夫だって! なんたって君は夢の中ではすごく強い(ばく)になったんだから。

 黒い夢を撒き散らし、白い夢を喰らってやりなよ」


 少年は中折れ帽を手にして頭に被ると未だに激しく痙攣する祐実()()()()()に語りかける。

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