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花天月地  作者: 功野 涼し
夢喰らう

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間隙

「う~ん、いくらなんでもちょっと遅くないかな?」


 何度も二階を見ていた桐は落ち着かない様子で、お茶を啜る牡丹に桐が話し掛ける。


「今日は事務所お休みですし、橘花様もたまにはゆっくり寝たいんですよ。二度寝したり、起きててもそのままごろごろするのって幸せじゃないですかぁ」


「まぁそうかもしれないけど……」


 猫舌なのでいれてから長い間放置されぬるくなったお茶を啜り、満足げにテーブルに置くと牡丹は指をピンと立てる。


「橘花様はいつも起きるのが早いのです。たまにはこうやって惰眠を貪ることをした方がいいのです。眠るって素晴らしいのですよ」


 うんうんと何度も頷く牡丹の頭の後ろからペチンと軽い音がして、牡丹の頭が揺れる。


「いてぇです! 鏡花(きょうか)! いきなりなにをするんですか!」


「びぃーっだ! 牡丹お姉ちゃんが鈍感だから叩いたんだし!」


「鈍感とはいきなり失礼なことを言いますね! 過酷な猫界隈の中を生き抜いた私の鋭き眼光を見てもそんなこと言えますか!」


 くるりとした瞳が収まる目を吊り上げ睨む牡丹と、舌を出して挑発する鏡花の間に桐が割って入る。


「喧嘩しない! それよりも鏡ちゃん、鈍感とかって言葉が出るってことは何かあるの?」


「そーよそうなの! 聞いて桐お姉ちゃん! 昨日の夜からなんだかこの家どんよりしてんだよ! どーんより」


 両手を何度も広げてどんよりを表現する鏡花を隣の牡丹は訝し気に見る。


「どんよりってなんですか。私は何も感じませんよ」


「だーかーらっ! 牡丹お姉ちゃんは鈍いんだって言ってるの!」


「なんですとー!!」


「あーもう! 2人とも喧嘩しない! それよりもどんよりについて説明して。橘花さんが起きてこないことと何か関係あるの?」


「たぶんだけど……」


 さっきまでの勢いが陰り、少し自信無さげに言う鏡花を攻め時だと見たかここぞとばかりにキリリと睨む牡丹だが、桐に睨まれるといつの間にか頭上に生えていたネコ耳をパタンと倒して萎れてしまう。


「あんまり自信は無いんだけどね、ぼんやりとしたどんよりがこの家の中を通って行ったの。それはたぶん寝ている橘花さまの所へ向かって、う~んと、上手く言えないけど鏡花の鏡の中に近い何か、例えば夢みたいなとこに繋がっている気がするんだよ。それで夢に囚われているみたいな感じかな?」


「囚われたって攻撃されたみたいなこと? でも、橘花さん強いでしょ。そうそう簡単に寝込みだからって襲えるものかな?」


「うーん、肉体的には無理でも夢とか精神的なものに繋げれればいけるかも?」


「そんなことをする妖怪とかいるの?」


 桐の質問にネコ耳をピンと立てた牡丹が割り込んでくる。


「人の夢を見て娯楽として楽しんだり、思いの籠った夢を食べたりする妖怪もいますけど、そんなに強くはないです。まして橘花様に憑りつこうだなんて無理ですよ。鏡花もそれは分かっているはずですよ」


「うーん、そうなんだけどなんか違和感があるんだよねぇ。例えばさ有名なので夢を食べる(ばく)って妖怪はいるんだけど、どちらかというと邪気ごと悪夢を食べてくれる人にとっては良い妖怪になるんだけど、感じた気配はなんか違うんだよねぇ~」


 空中をふよふよと浮く鏡花が首を傾げるたびに、そちらの方向へと流れていく。


「とりあえず橘花さんのところへ行って確認してみようか。何もないならそれでいいし、もしかしたら普通に起きるかもしれないし」


「そうですけど、橘花様の部屋に入るのは恐れ多いと言いますか、不安と言いますか……」


「そうそう、橘花さまの寝室に入るとか考えただけでも怖いもん」


「ですよねー」「だよねー」を声をそろえる牡丹と鏡花の姿を見て、思わず笑ってしまった桐はそのまま橘花の寝室へと向かう。

 日頃自分で起きて、掃除もこまめにする橘花ゆえに部屋に入る機会は少なく、牡丹や鏡花ではないが桐も緊張から耳がちょっぴりキーンと響く。


 ノックをして名前を呼んでも反応がないのでドアノブに手を掛け、ゆっくりと開けると日頃の橘花から想像しやすいシンプルな部屋が広がる。

 寝れればいいベッドに映せればいい鏡台、字を書くための机、本を置く場所が必要だから設置された本棚。服類は備え付けのクローゼットに収納されていると思われる。

 一見殺風景に見えるが、本棚の下の段にある可愛らしいぬいぐるみたちや、机の上を飾る緑の葉を伸ばす観葉植物は桐や牡丹が送ったもの。

 壁にチェーンで掛けられている丸く小さな鏡は、鏡花が桐に頼んで橘花に送ったのものである。


「すぐに枯らすから植物はちょっと苦手なのよねぇ……」と渋っていた橘花だったが、みずみずしいミントグリーンの姿にこまめに世話している橘花の姿を想像し桐は笑みをこぼしてしまう。


 自分たちが入ってきても反応せず静かに寝息を立てる橘花に違和感を感じつつ、肩を揺らし呼びかけるが目を開けないことに更に不安を募らせてしまう。


「うーん、やっぱりなんかおかしい気がする。こう、すーんって何か通ったような感じ?」


「なんですかその曖昧な感じは。もっとハッキリするのです!」


「びぃーだ! 何にも感じない牡丹お姉ちゃんよりも鏡花の方が偉いもーんだ!」


「にゃんですとー!」


 指を立て振りながら何か通ったジェスチャーをする鏡花に絡む牡丹、言い合いになる2人の頭に桐の手がそっと乗せられる。


「そんなことしてる場合? これだけ騒いでも橘花さん起きないんだよ! おかしいと思わないの? この事態をどうにかするのが先じゃないの?」


「ひっ!?」

「ひやっ!?」


 涙目で睨む桐の放つ迫力に思わずたじろいでしまう2人。


「き、桐お姉ちゃん。もしかしたら橘花さまの見てる夢の中に入ること出来るかも。そしたら原因が分かるかもしれないしっ!」


「夢の中に? そんなこと出来るの?」


「普通なら鏡花には無理だけど、何者かが入った痕跡を見つければ入り口を開くこと出来ると思う」


「な、ならば私が橘花様の夢の中に入ってこの事態を解決してみせます!」


 牡丹と鏡花ががっしりと肩を組み、開いた手で拳を握って意気込みを見せると桐は大きく頷き、そして向けた瞳には強い意志がこもっていて向けられた2人は思わず固唾を飲んでしまう。


「私も行く」


「「えー!?」」


 拳を握って宣言する桐に2人が驚きの声を揃えて上げる。

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