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花天月地  作者: 功野 涼し
口の裂けた者

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艶羨

 口裂け女は身を低く屈め、地面を蹴ると長い爪を振りかざす。それと同時に真正面から同じく爪を出した牡丹が迎え撃つ。


 互いの爪がぶつかる距離まで近付いた瞬間、鏡が口裂け女の顔を映す。目の前に突然鏡が現れたせいで衝突し大きく頭を揺らした口裂け女の腹を牡丹が両足で蹴る。


 見事なドロップキックが決まり派手に転がった口裂け女が、人の骨格では再現できそうにない動き、膝を曲げたまま上半身の反動だけで起きてみせる。


「うなああっ! 気持ち悪い立ち方すんなぁっ!」


 鏡花が口裂け女の目の前に銅でできた鏡を宙に出現させ押えこもうとするが、あっさり鏡は弾かれ彼方へと飛んでいく。


「鏡花の鏡はしょぼいのです。私の爪が最強なのですよ!」


 牡丹が振り降ろした左手の爪は口裂け女の両手の爪に弾かれる。攻撃を弾かれよろける牡丹に追撃される口裂け女の爪を鏡が遮るが、それも弾かれ牡丹の顔面に鏡がヒットする。


「おぶっ!」


 顔面に鏡がヒットし涙目になった牡丹を見て鏡花が笑いながら謝る。


「笑いながら謝るヤツがあるですか!」


「ごめ、ごめんなさいっ。でも牡丹お姉ちゃんの顔真っ赤で……ぶふっ」


「お前また笑いやがりましたね!」


 言い争い始める2人だが、振り降ろされた口裂け女の爪で左右に分かれ避ける。そのまま爪で串刺しにしようと突きを放つ牡丹と、鏡で叩こうとする鏡花の攻撃を口裂け女がその場でブリッジしてせいで避けたせいで、2人の攻撃がぶつかる。


「うぎゃあっ、いたあっ!」

「いたあいっ!」


 手を押える牡丹と、自分の鏡が顔面に当たった鏡花が地面に転がる。


「同時に攻撃するやつがありますか!」


「ぶう~っ! 牡丹お姉ちゃんが鏡花に合わせれないのが悪いんだもん!」


 地面に座ったまま言い合う2人の真ん中にいた口裂け女が両腕を広げ回転したせいで牡丹と鏡花が吹き飛ぶ。

 すぐに立ち上がった2人が口裂け女を睨み、飛びかかるが順番に蹴られ再び吹き飛ぶ。


 頭を押さえながら体を起こす牡丹と、よろよろと宙に浮かぶ鏡花が口裂け女ではなく互いに睨み合い犬歯を見せ唸り今にも飛び掛かりそうな雰囲気を出す。


 そんな2人間を切り裂いたのは意外な声。


「牡丹! 鏡ちゃん! いい加減しなさい!!」


 両手を上げて威嚇し合っていた2人が首を軋ませながら声の主を見ると、見せたことのない目で睨む桐の姿があった。


「喧嘩してる場合じゃないでしょ!」


 怒る桐の姿に目を丸くして驚く牡丹と鏡花を、もう一睨みしながら桐がビシッと指差す。


「返事は!」


「はい!」

「はいっ!」


 意味はないが敬礼しながら同時に返事をした2人は桐に背を向け肩をぶつけ合う。


「普段温厚な桐が怒ってますよ。これはまずいですよ」

「う、うん。桐お姉ちゃんが怒るなんて思わなかったっ」


 こそこそ話す2人は背中に桐の鋭い視線が突き刺さるのを感じて、汗を垂らしながらも全力の笑顔で振り返る。


「桐、鏡花と私は仲良しです! 見ててくださいよ! ねぇ~鏡花」


「そ、そうっ! 牡丹お姉ちゃんと鏡花は仲良しっ! ねぇ~」


 ワザとらしい動きの2人に対して、不審感たっぷりな桐の視線から目を逸らし、牡丹が先に口裂け女に向かって走ると大きく跳ねる。

 宙で体を丸め前転し真上に現れた銅鏡を足場にして真下へと跳ね口裂け女の左腕を掴む。それと同時に落ちて来た銅鏡を空中で鏡花が掴むと口裂け女の顔面を叩く。

 その瞬間腕の上で逆立ち状態の牡丹が回転する。腕の関節を中心に落下の勢いと全体重をかけ回転するそれは、ドラゴンならぬ猫スクリュー。


 あり得ない方向に捻じれる腕を掲げ口を大きく開け叫ぶ口裂け女の真上に銅鏡が現れ、更にその上へと飛んだ牡丹が銅鏡を真下へと蹴る。


 真下に高速で落ちる銅鏡が大きく開いた口の中へと放り込まれると、ぎっしりと生えた歯を砕きながらめり込む。

 飛び散る白い破片を光が揺らぐ瞳に映す口裂け女を囲うように縦に水が流れ出し水の鏡となって彼女を映す。


 上下左右に現れた水鏡が何重にも自身を映すせいで、自分がどこにいるのか見失った口裂け女の首元に水鏡を突き破って現れた鋭い爪が立てられる。


 鋭く尖った爪が口裂け女の喉元を突き破りそのまま地面に叩きつけられる。


 口裂け女は喉元と口から派手に鮮血を散らすが右手を伸ばし、牡丹の腕を掴み自身の爪を食い込ませる。

 腕から流れる血に表情を歪ませる牡丹だが力を緩めず、喉に立てた爪を更に食い込ませる。このままやらせまいと牡丹の腕に爪を食い込ませていく口裂け女の肩が突然弾ける。


 小さく響く鈴の音を聞いて口角を上げる牡丹の爪が口裂け女の首を貫き、そのまま真横に一線引く爪の軌跡は口裂け女の体と頭を切り離してしまう。


 体から離された頭は転がり流れる視界の中で桐の姿を目に映しながら涙を流す。


「うん、いいね。最後に感じるのが悲しみでなくて嫉妬だなんて素敵だよ」


 転がっていた頭を拾い上げた少年は嬉しそうな笑みを浮かべると、口裂け女の大きな口の中に手を突っ込み飴玉のようなものを取り出す。同時に瞳の光を失った頭を地面に投げ捨てると口の中に飴玉を放り込む。


 ずぶずぶと崩れていく口裂け女の体と頭は、涙の煌めきの残像を残して塵になり風に吹かれ消えていく。


 牡丹の攻撃の余韻を感じる間もなく突然現れた真っ黒なスーツを着た少年を、桐と牡丹、鏡花が唖然とした視線を送るなか、少年はステップを踏む度に甲高い鈴の音が響き地面が弾ける。


「ちゃんと挨拶したかったのに、保護者の方が許してくれないか。残念だけどまたねっ!」


 にこやかに手を振る少年に橘花の銃のグリップを利用した手刀が襲い掛かるが、少年は塵となって霧散する。


「ちっ、逃げ足の速いやつね」


 悔しそうに歯ぎしりをする橘花だが、桐たちを見渡すといつもの冷静な表情で声を掛ける。


「帰るわよ」


 素っ気ない言い方だが、いつもの橘花の態度に現実に戻された3人はそれぞれ頷き帰路につくことになる。

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