善悪
空から見える景色は痛ましいもので、倒れる人の数だけ点々と広がる血の海は遠くから見てもくっきり見えてしまう。
原因であろう妖怪が通った後にはその妖怪の臭いに混じって、天使である橘花を苛立たせる臭いが混ざっている。
「わざと残してるってのがまた腹立つわね」
大きく羽を広げ高度を一気に上げると電波塔の一角にある柵の上に舞い降りる。
白い羽を広げ、舞い散る光は羽根が、舞っているように見える。
「知らない男に誘われるのは嫌いなのよね」
「そうなんだ? だったら僕のこともっと知ってほしいな。そしたら誘ってもいいでしょ?」
柵の上に足をぶらぶらさせ座る黒いスーツを身に纏う少年は、頭の中折れ帽のつばを人差し指で上げ、無邪気な笑顔を隣に立つ橘花をに向ける。
対して橘花は横目で見てすぐに目を逸らすとめんどくさそうな表情を見せる。
「で? 何の用かしら?」
「何の用ってこの町に引っ越して来たから挨拶だよ」
「それはご丁寧にどうも。大人しくしてるんなら干渉しないけどそういうわけじゃないんでしょ」
少年は愉快そうな表情で持っている杖をくるくる回し始める。
何回か回した次の瞬間には甲高い音が響き、柵の上に立って向かい合う橘花の銃と少年の杖から抜いた剣がぶつかる。
「へえ~その辺の天使とは違って反応がいいね」
「お褒め頂き嬉しいわね。まあ、悪魔に褒められても嬉しくないけど」
無邪気な笑顔を向ける少年と不愛想に答える橘花は、会話しながらも次の一手を繰り出す。
真横に振られる剣を上半身を反らしてかわしつつ、両手に持つ小銃から銃弾を放つ。
鈴の音を響かせ放たれた弾丸を、片足を軸に回転しながら避けた少年が突き出した剣を踏み、宙に身を投げつつ真上から銃弾を放ち背中側に移動する。
真上からの銃弾を手すりの上を踊るようなステップで避ける度、銃弾が当たり火花が弾ける。
「プレイフル」
背中側から撃つ銃弾を剣で弾く少年だが、橘花の呼びかけに反応した銃弾たちが意志を持ち縦横無尽に動き始める。
不規則に動く銃弾は互いをぶつけ、火花を散らし弾かれると軌道を変えまた他の銃弾や壁ではね返り少年を襲う。
「おっ! おっと、これはヤバイね」
ヤバいと言いつつ楽しそうに避ける少年の上から、三本の爪が弧を描き振り降ろされる。少年が先ほどまでいた場所の手すりは切り裂かれ地上へと落ちて行く。
「スクラッチ」
三つの銃口を持つショットガンからは放たれた銃弾は、足元から上へと浮き上がりホップすると少年の中折れ帽を掠る。
「うわわわ、危ない、危ない」
浮き上がった中折れ帽が落ちないように手で押さえつつ、トントンと手すりの上をバックステップで橘花から離れる。
「なにが危ないよ。人を馬鹿にするような態度が頭にくるわね」
「そんなにカリカリしないでよ。折角の可愛い顔が台無しだよ」
「余計なお世話よ。やる気ないなら帰ってくれないかしら」
橘花が銃を光に変え消すと、少年も剣を杖に収める。
「そうだね。引っ越しのご挨拶に来ただけだし今日のところはこれでおいとまさせてもらおっかな。天使さんもあっちに行きたいだろうし邪魔しちゃ悪いもんね」
「なにが邪魔よ。あの妖怪もあんた絡みでしょ」
「ありゃ、バレてた? まあ天使さんも知ってるから僕が乱入しないようにこっちに来たんだもんね。う~んさすがだね~」
小馬鹿にしたような口調と笑みを浮かべた少年はスーツの襟を正すと深々とお辞儀をする。
「僕の名前はエーボレ、さっき付けた名前だけどよろしくね。天使さんのお名前も聞いてもいいかな?」
「橘花」
ぶっきらぼうに答える橘花をくすくすと可笑しそうに笑う少年は、再びわざとらしく大きなお辞儀をする。
「それじゃあ、橘花これからよろしくね。それじゃあ僕は帰るから、あっちで暴れてる子の相手してあげてよ、血染めの天使さん」
その言葉を最後に少年の体の周囲に霞がかかりうっすらと消えていく。
「私のこと知ってる物言いがまたムカつくわね」
橘花は少年の消えた場所を睨むと羽を広げ桐たちの方へ飛んでいく。




