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花天月地  作者: 功野 涼し
口の裂けた者

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戮力

 口の裂けた化物となった千恵は、目の前にいる桐が不憫でならない。いつも天倫(あまり)にいじめられ苦しそうな彼女の顔を見て心を痛めていたのだ。

 本当は笑って欲しかったのだ。だから今、桐に笑ってもらおうと指に力を入れる。


水鏡(みずかがみ)!!」


 鏡花の声が響き、桐と化物の間に水の膜が張り二人の間を遮る。


 澄んだ水は化物となった千恵の顔を映す。改めて自分の姿を見て驚き手の力が緩んだところで水鏡は光を化物目掛け放つ。

 自分の顔を凝視したところに大量の光を浴び化物は目を押さえ奇声を上げる。


「桐お姉ちゃん逃げるよ! 鏡花じゃこれが限界っ!」


 叫ぶ鏡花に引っ張れ桐は急いで立ち上がり走り出す。


「鏡ちゃん、あれなに?」


「鏡花にあんなの知らないよっ。人がイメージして作ったにしては、なんかこう作りが違う気もするし……って速い!?」


 繁華街を走る桐をものすごいスピードで追いかけてくる化物は、大きな頭にちぎれそうなくらい裂けた口を時々パカパカさせ、細い手足を振りながら走ってくる。


 アンバランスな体からは想像も出来ない走りに驚愕する間もなく化物は、地面を蹴ると大きく跳躍する。

 そして長く鋭い爪を振りかざしてくる。


「ど、銅鏡(どうきょう)!!」


 目を瞑りながら慌てて手を振りかざした鏡花が叫ぶと、銅で出来た鏡が現れる。


「うひゃ! 弾かれた!」


 小さな銅鏡は一撃を反らすには役立ったが、あっさり弾かれ、はるか彼方へと飛んでいってしまう。


 真横に振られた爪の軌跡を、逆方向から走る軌跡がぶつかり火花を散らす。


「にゃふふふっ! 爪で私に敵うわけないのです!」


 したり顔の牡丹が化物の爪を止めると弾いて、よろけた化物の腹に蹴りを入れ吹き飛ばす。


「鏡花、お前は弱すぎるのです。桐を守れるのはやはり私だけなのです!」


「むぅーっ! 牡丹お姉ちゃんは探知能力がヘボい~って橘花様が言ってたもん! 探知能力バリバリの鏡花の方が桐お姉ちゃんの役に立つもんっ!」


「探知できても戦えないのでは意味がないのです!」


「むぅ~!!」

「にゃぁ~!!」


「もう! 二人とも喧嘩しないで! それよりあの妖怪をどうにかしないと。牡丹、橘花さんは?」


 桐がいがみ合う二人の間に割って入って強引に止める。


「橘花様は寄るところがあると言って私をここに残してどこかへ行かれました」


「えぇ~」


「あ、なんですかその、あからさまに私じゃ頼りないって顔!」


 三人が騒いでる間に化物はゆっくりと立ち上がり、大きな口を開きびっしり生えた歯を見せる。


「口裂け女……とはまた違う感じがしますが、細かい分類分けは混乱を招くのでそのまま口裂け女と名付けてやるのです。そして私の爪の前に消えるがいいです!」


 一周回って口裂け女と名付けられた化物は牡丹の振るう爪を受け止め、続く牡丹の蹴りを足でガードする。


「こいつ動きが良くなってるのです」


 ガードされた足をそのまま強引に押され、宙に蹴られた牡丹がしなやかに回転し体勢を整えると、それを追撃する口裂け女の爪の前に現れた胴の鏡が弾く。


「牡丹お姉ちゃんだけじゃ弱いから鏡花が手助けして上げるっ」


「むっ、余計なことを……と言いたいところですが、鏡花のおかげで助かりました」


「そうそうっ、素直が一番だよっ!」


「あぁっ、やっぱりムカつきます!」


 再びいがみ合う二人が口裂け女の斬撃を左右別れて避ける。


「今は桐を守るのが先決です。鏡花手伝ってください!」


「了解っ! 鏡花の力見せてやるんだからっ」


 何だかんだで協力し合う姿勢を見せる二人の姿に桐は安堵感を覚えつつ、口裂け女を改めて見る。


 ──どこかで会ったことがあるような……。


 桐に化物との知り合いなどいるはずはないが、口裂け女とどこかで会ったような感覚に妙な胸騒ぎを覚える。

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