表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花天月地  作者: 功野 涼し
口の裂けた者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/48

破顔

 食料を買い終え買い物袋に食品を詰める桐は普通の人間であるゆえに、少し離れた場所での騒ぎなど知る由もない。

 だが隣を浮遊していた鏡花は見た目は幼い少女でも人ではないゆえに異変に気付く。


「桐お姉ちゃん! 何かいる! 逃げた方がいい」


「へ? 逃げるって何から?」


「何か分かんないっ! でもなんかすご~く嫌な感じのヤツがいるの。とにかく橘花様に知らせてどうにかしてもらおうよ!」


「う、うん分かった」


 状況は飲みこめないが、鏡花の慌てっぷりを見て妖怪や幽霊絡みと感じ取った桐は急いで食材を詰めると店を後にする。



 ***



 幽霊や妖怪はいても認識が曖昧になる。存在の感じ方に個人差があり、目の前で起こる惨劇が化物によるものと認識する人と、狂人によるものと認識する人に別れる。


 認識の差はあれども事件は確かに起きていて、通報はされるわけで、警察官たちが駆けつけることになる。

 だが警察官の間で認識の齟齬が生まれ現場に混乱をもたらすこととなる。


 目の前に口が大きく割れカタカタ笑いながら向かってくる化物だと認識する者と、長い髪の毛を乱しながら奇声を上げ向かってくる女性だと認識する者との間には明らかに対応の違いが生まれ、発砲許可を確認する者の隣で取り乱した一人の警察官が発砲する。


 一発の発砲を皮切りに数人の警察官が続いて発砲する。数発の銃声が響き、誰しもがこの事件の終わりを感じていた。


 だが予想された事象が起きることはなく、最初に発砲した警官の口の中に異物が突っ込まれ、両端が引っ張られる。

 目の前には無数の歯が生えた口を大きく開き、警察官を見てカタカタと笑う。


わだって(笑って)


 口の端がビリッと音を立て、その音が頭の後ろまで進むと視界が空から地面を向き何も見えなくなる。

 ドサッと大きな音が聞こえるが、それが自分が立てた音だとは認識することなく意識は消えていく。


 赤い水溜まりを広げていく同僚を見て、他の警察官たちは何が起きたのかも分からず顔を見合わせる。

 人の認識などその程度であり、理解することは出来ない。


 次々と真っ赤な笑顔の花が咲いて警察官たちが倒れていく。

 その光景に周囲の人たちの多くは立ちすくみ、惨劇をただただ呆然と見つめている。


 駆けつけた警察官たちが皆倒れたとき、口の裂けた化物は大きな口と対照的な小さな鼻をヒクヒクと動かす。


 それが何かは分からない。でもそれはとても魅力的な香りを放ち、化物を惹き付ける。懐かしくもあり、本能がそっちへ行けと訴えてくる。

 警察官の口を切り裂き、前かがみの姿勢だった体を起こすと遠くを見つめ口の避けた化物はゆっくりと歩き始める。



 ***



 かつての同級生であり自分をいじめていた人が化物になっていることなど知ることもないし、まして自身がその化物の標的になっていることは知らない。

 だが、桐に取り憑く鏡花は違う。多くの人に触れ、その魂の中に人の悪意によって人の世から去った者たちを持つ彼女は、他人から向けられる気持ちに敏感である。


 取り憑いている桐に向けられた思いにいち早く勘付き桐を引っ張る。


「桐お姉ちゃん! 止まって!!」


「ええっ! と、止まる?」


 鏡花に逃げようと言われ走っていた桐は、今度は突然止まれと言われ困惑気味に止まる。


「さっきまでイヤな感じのヤツ適当に動いてただけなのに、こっちを向いた気がするのっ!」


 身ぶり手振りを交えて必死で話す鏡花だが、表情を強ばらせゆっくりと振り返る。

 鏡花の視線を桐も追うと、乱れた黒い髪の女性が一人下を向いて立っていた。


 異様に大きな頭をゆっくりあげ、口が頭の後ろまで裂けている大きな口を開け、口内にびっしり生える歯を見せる。


 骨ばった細く長い指に生えた、鋭く長い爪を桐に向ける。


みずげたぁ(見つけたぁ)


 口をパペットのようにパカパカ開きながら出す声は聞き取りづらく、何を言っているかは分からない。それでも化物が自分を見ていることは桐にも分かった。


 大きな頭と細い手足をゆらゆらと揺らしカタカタと音を立てる。


 逃げるための算段、それを考えれるくらいの余裕が桐のあったのは今までの経験があったから。だがそれでも所詮は人。


 頬を冷たい何かが触れる。


 それが化物の手だと気付いたときには、唇の両端に化物の親指が触れる。


ぎりぼわだって(桐も笑って)


 桐の表情を見て化物は今までにないほど破顔する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ