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花天月地  作者: 功野 涼し
学校の七不思議

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35/48

同居

「橘花さまぁ、最初からあの幽霊を討伐する気なかったですよね」


「まあね~」


 手鏡を振り回しながら宙を漂う鏡花を追いかける桐を、テーブルに頬杖をつきながら眺める牡丹は隣でコーヒーを飲んでいる橘花に尋ねる。


「討伐しないのは分かりましたけど、なんで連れて帰るんですか?」


「なに? 嫉妬してんの?」


「むぅ~……してます」


 頬杖をついたままふくれっ面になって、漂う鏡花をジト目で見る牡丹がボソッと一言放つと橘花は可笑しそうに笑う。


「素直に言うのね」


 牡丹の膨れた頬を突っつきながら橘花は笑う。


「学校の七不思議なんて大抵が、人の想像した怖いって思いを叶えてあげようとした曖昧な存在の仕業。

 鏡花は魔力と魂の色が濃いから明確な意思を、持ってしまった存在。初めっから攻撃の意思はなかったし、誰構わず討伐しないわよ」


 橘花が牡丹の膨れた頬をぎゅっと押すとぷうっと息が漏れる。


「でも桐に鏡花を取りつかせたままでいいんですか?」


「鏡花も相手してくれる人がいたら暴走することもないでしょうし、桐といた方がお互いにとっても良いはずよ。二人とも引かれ合う部分があるんでしょうし」


 橘花が首を傾げる牡丹を見て、桐と鏡花に視線を移す。


「鏡花は人の魂の欠片が集まったものと魔物の残滓(ざんし)の融合から生まれた子」


 牡丹の頭の上にネコ耳が飛び出てピンっと立つ。


「もしかして鏡花の魂って……」


「ええ、前の桐と同じ境遇だった子たちの集まりでしょうね。だから惹かれ合ったんでしょ」


「そういう惹かれ方っていいんですか? 傷を舐め合う関係とかあまりよくないって本に書いてましたよ」


「互いに傷を舐め合い、慰め合うのが全て悪いわけじゃないと思うの。傷を癒すときは必要。ただ、居心地が良いからってそこに居続け進めなくなるのが悪いのよ。ゆっくりでも互いに支え合って進めるならいいの」


 橘花は宙をくるくる回りながら舌を出して楽しそうに笑う鏡花と、ぴょんぴょんとジャンプしながら手鏡を振り回す桐を見て笑みを浮かべる。


「いじめとか、犯罪の被害者の過去は消せない。どんなに時が経っても事実としてそこにある。ふとしたとき、思い起こされる事実に体を蝕まれる感覚。それを抱えたまま進み続けるのはあまりにも過酷なものよ。

 桐もずっとここにいるわけじゃない。いつか自分で歩く日が来たとき枷を抱えたまま歩ける強さを持っていて欲しいの。

 そういった意味でも鏡花の存在は桐にとってもプラスになるかもしれない。それに面倒を見るというのは、桐が今まで経験したことないでしょうから、それだけでも大きいわね……ってなによ?」


 口をぽかんと開けて自分を見る牡丹に橘花は頬を少し赤くする。


「いえ、やっぱり橘花様は優しいなって」


「っ! べ、別に、桐がほっとけない感じだからよ」


「鏡花のことも考えてますし。やっぱり優しいですよ」


「あぁもうっ! 私は今回の調査結果の報告書を学校に提出しなきゃいけないから忙しいの。牡丹も桐を手伝ってあげなさい」


「はいです!」


 椅子から勢いよく飛び出した牡丹が桐と鏡花の追いかけっこに参戦する。


「うわあ! 牡丹お姉ちゃんも来たっ!?」


「鏡花! 桐に迷惑をかけてっ、大人しく鏡に戻るのです!」


「いや~もっと遊びたいの~!!」


「鏡ちゃんが新しい鏡に馴染むのに時間が掛かるんだから、一時間で良いからじっとしてないといけないの! 牡丹」


「一時間もじっと出来な~い!」


 宙を逃げ回る鏡花と桐と牡丹の追いかけっこを見て、ため息をつくがその表情はどこか楽しそうな笑みが浮かんでいる。


「さてと、報告書になんて書こうかしら。幽霊は家で引き取りましたから安心です。な~んて書けないし、困ったものね」


 橘花は楽しそうに困ったと言いながら、自分の席に座りパソコンの画面を睨むのだった。

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