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花天月地  作者: 功野 涼し
学校の七不思議

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34/48

命名

 ぷつりと音が消える感覚。


 視界はあるが白色が多くて、眩しくないけど眩しい感覚が襲う。


 地面があるかも分からないが、足が付いて立ててることから、あるのだろうと結論付ける。ただ、どこを歩いていいのかが分からないので足を出すのは躊躇(ちゅうちょ)してしまう。


「ねえ」


 桐が上手く立てずふらふらしているところに突然背中から掛けられた声に、こけそうになってしまう。

 なんとか踏ん張って、振り返ると黒くて長い髪の女の子らしき人物が立っている。


 ()()()というのは、髪が長くワンピースらしき白い服を着ているように見え、輪郭も体のシルエットも曖昧でなんとなく人の形を成していて、それが女の子っぽいだけでそう思っただけである。


 長く艶のない前髪の隙間から覗く黒い渦は目の位置にあるから目なのだろう。


 青白くてガリガリの腕をあげると桐に手を伸ばす。


「あそぼっ、おねえちゃん。あそぼっ」


 口のない顔で話し掛けてきて足を動かしていないのにゆっくりと迫ってくる女の子。


「ひいっ!! お、お化け!!」


 後退りする桐に女の子はゆっくり近づいて来て、細い手を伸ばし指先が桐に触れる。目に涙を浮かべる桐に、女の子の顔に黒くぬりつぶしたような口が現れると、口角を上げ微笑む。


「なにするっ? お人形遊びっ? おままごとっ?」


 ペタンと尻餅をついてしまった桐に、手を広げて覆い被さらんばかりの勢いでのし掛かってこようとする女の子。


「へぶっ!?」


 変な声と共に女の子が桐の目の前から消え、離れた場所にゴロゴロと転がっていく。


 上から糸で引っ張られる、操り人形のように立ち上がった女の子が、黒い渦の目を向ける。


「ったく鏡の中に住んでるとは面倒だわね」


「お前っ! ど、どうやって入ったのっ!」


「どうって、結界壊して来たんだけど」


 白い空間に入ったヒビの隙間から入ってきた橘花と後ろから牡丹が顔を覗かせている。銃のトリガーガードに指を刺し回したまま橘花が女の子を睨む。


「さて、私の依頼は学校にいる不審者の調査。そしてこうして不審者を見つけたわけだけど、どうしてくれましょうか?」


 橘花がじりっと寄れば、女の子はじりっと後ろに下がる。橘花が近付いた分だけ女の子は下がっていく。


「こ、こわいっ!」


「学校の七不思議の張本人に怖がれるなんて心外ね」


 更に眼光を鋭くする橘花に耐えれなくなったのか、パタパタと足音を立て桐の後ろに隠れてしまう。


「ちょっと、あの、え~っ」


 桐はさっきまで自分に迫ってきた女の子が、今は自分の背中に隠れて橘花に怯えている姿に困惑する。


「そもそも学校の七不思議の張本人ってなんですか?」


 桐の背中で黒い渦の目を震わせ橘花を見る女の子を、橘花が指差す。


「その子は恐怖のイメージが形を成したもの。原料は複数の魂の欠片と魔力ってとこかしら。みんなが怖いと思ったことを現実にする為に生まれた子。その子の姿も大方この学校に出ると噂の、謎の不審者に殺害された女の子の霊のイメージといったところじゃないかしら。実際にそんな事件は起きてないんだけど」


「あの、橘花さんはこの子をどうするんですか?」


「どうするって、銃で撃ち抜くか、蹴って粉砕するかね」


 橘花の言葉に身を縮め自分の背中にしがみつく女の子を見て、桐の胸の奥がチクリと痛む。


「あのっ」


「見逃してあげてとか言うんじゃないでしょうね? その子は桐を鏡の中に閉じ込めようとしたのよ」


 キリッと睨んでくる橘花に思わずのけ反るが、意を決して言葉を口に出すため息を吸い口を開く。


「その、私も怖がってましたけどよく見たらこの子が悪い子には見えなくて、ただ遊びたいだけなのかなって……。

 無責任なのは分かってますけど、せめてこの子の話しを聞いてから判断するとかダメですか?」


 一生懸命に話す桐の言葉を黙って聞いていた橘花だが、ゆっくりと銃を女の子へ向ける。桐の服を更にギュッと握る女の子を見て桐は橘花の前に立ち女の子を庇う。


「あら、本気なのね」


 橘花の問いに桐は頷く。


「いいわ。その子は桐に任せるわ。既に取り憑いてるけど害はなさそうだし、ちゃんとお世話するなら見逃してあげる」


「えっ、取り憑いてる!?」


 桐が恐る恐る後ろを振り返ると女の子は、こくこくと頷いて肯定する。


「牡丹と帰って来た時から、既に目をつけられてのよ。学校に入ってあなたの周りをウロウロしてたから接触してくる隙を伺ってたんだけど」


「うっ、まあいいです……。ところでお世話って何をするんですか?」


「その子の依り代をあなたが持ってれば良いわ。心が満たされれば悪いこともしないでしょうし、たまに遊んであげれば尚良いわね」


「遊んであげるって、私取り憑かれてるのに……」


 未だ桐の背中の服を握る女の子を見つめると、黒い渦の目玉をクリクリ動かしてなんだか嬉しそうにも見える


「一緒にくる?」


 桐の問いに女の子は大きく何度も頷く。


「お名前は?」


「ない」


「ないんだ。それじゃあ……」


 顎に指を当て女の子を見つめながら考え始める。


「鏡の中にいて……私に取り憑いてるし、鏡花(きょうか)とかどうかな? 可愛いと思うんだけど」


 女の子は黒塗りの口と渦の目を丸くして桐を見つめる。


 ポンッ!


 突然軽い音と、狸や狐が化けるみたいな煙が女の子を包むと、直ぐに煙が晴れ中からキューティクルな髪質のセミロングで、大きな目の女の子が姿を現す。


 女の子は水色のワンピースの裾を摘まんだり、腰にある白いリボンを突っついたりしてくるっとターンした後、空中に突然出現した鏡で自分を見て目をパチパチしたり笑みを浮かべたりする。


「鏡花、かわいいっ!」


 一通り自分を見た後、桐を見て決めポーズを取る。


「えっと……鏡花……であってる?」


 女の子は大きく頷く。


「この子の存在はイメージが大切だから。桐が可愛いって思ったからその姿になったんでしょ」


 橘花の解説に何となく納得したように頷く桐に、鏡花は満面の笑顔を見せる。


「きりお姉ちゃんっ! 今日からよろしくねっ!」


 突然変わった姿とテンションの高さに戸惑いながらも、鏡花に手を握られ上下に振られる桐は笑顔を見せる。


「むぅ……ライバルの出現ですか。桐のペット枠は譲りませんよ」


 空間にあるひび割れの影から牡丹が、その様子を悔しそうに見つめていたのだった。

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