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花天月地  作者: 功野 涼し
学校の七不思議

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33/48

贋物

 夜の建物というは、どこであっても不気味なものだが、学校は他とはまた違う不気味さを放つ。


 不審者騒ぎで部活等は中止になり、先生たちも帰ってしまった校舎はいつに増して静かで、自分の足音が響き耳につくほどである。


 ──女性三人だけで一晩校舎の中で過ごすんですか!?


 桐は静かな校舎を歩きながら宿直の先生が言った言葉を思い出していた。


 ──その……怖がらすわけではないんですが、私も見たんですよ。幽霊。


 桐は勢いよく首を横に振って先生の言った言葉を振り払う。


 何が怖がらせる気はないだ。十分怖がらせにきてるじゃないかと頬を膨らませる桐の横でニコニコと機嫌良さそうなのは牡丹。


「橘花様、三人で夜の校舎とか楽しいですね。ワクワクします! あ、お菓子食べます?」


「お菓子って牡丹遠足じゃないんだから……ってこれ猫用じゃない!」


「ええ、これ美味しいんですよ。外はカリッとしてて、中からじゅわ~って出てくる甘い汁がまた美味しいんです!」


 じゅわ~を表現する為に大きく手を広げる牡丹に、眉間にしわを寄せた橘花が手のひらに乗った猫用オヤツを返す。


「食わず嫌いはもったいないですよ」


 牡丹は猫用オヤツをボリボリと音を立て食べ始め、頬を押さえじゅわ~を堪能しているようだ。


 緊張感のない二人にどこか安心感を覚える桐だが、手帳を見ながら歩く橘花が足を止めたせいで前を歩いていた牡丹にぶつかる。


「どうしたんです?」


 鼻を押さえながら尋ねる桐に答える代わりに橘花は階段を指さす。


「階段ですか?」


「そう、夜になると階段の段数が増えて十三階段になるというやつらしいわね。数えながら十三段目に足を掛けた途端、底が抜けていつの間にか首に掛かっていた縄が締まるってこの世とさようならになるって」


「ひぃっ!?」


「橘花様、この階段十五段ありますよ。減ったりもするんですか?」


 牡丹の指摘に階段を数えると確かに十五段ある。


「噂だと職員室の横の階段ってことなんだけど、他の場所なのかしら?」


 三人は階段を見つける度に数えるが全て十五段以上あり、既に十三より数が多い。


「噂なんて適当なものね。じゃあ次、音楽室で肖像画が動くってやつを見に行きましょう。前にきた子たちも音楽室で見たって言ってから、出会える確率は高いわね」


「はい!」


 どこか楽しそうな二人の後ろを怯えキョロキョロする桐が続いたまま音楽室へと向かう。音楽室のドアを開けると、防音室の効果もあるのか、静けさで耳が痛くなるほどの静寂が迎えてくれる。


「ふ~ん、いるわね」


「ですね」


「ええっ! い、いるんですかっ!?」


 冷静ではいられない桐が肖像画に視線を向けると、音楽家であるバッハ肖像画の目が動き、ピタリと目が合う。


「ば、バッハ、バッハと目がっ!」


 慌てふためく桐の横で橘花が肖像画と手帳を見比べ唸る。


「う~ん、なんか違うわね。もっとこう目がぐるぐる回ったり、ときには飛び出すって話だけど残念ね。期待外れだわ」


 橘花の言葉にバッハの目が激しくぐるぐる回り、漫画のように目が飛び出す。


「あ~パッとしないわね。そうそう、なんか突然ピアノが鳴り出すらしいわよ」


 鍵盤の蓋も開いてないのに突如鳴り響くピアノの音に、桐が驚いて肩を大きく震わせる。

 静かな音楽室で鳴り響くピアノはそれだけで恐怖を掻きたてられるものだが、橘花と牡丹はピアノを見ながら不満気に言い放つ。


「この曲はメリーさんのひつじ……だったかしら?」


「可愛い曲ですね」


「噂だとバッハの『フーガの技法』を盛大かつ繊細に弾くそうよ。今はウォーミングアップかしらね」


 ピアノの音が一旦止まりしばらく間が空いて、ぽろん、ぽろろろんっとあからさまに迷った音が鳴り始める。


「期待外れね。じゃあ次、理科室の人体模型が夜な夜な動くらしいわ。こっちには期待しましょう」


 たどたどしい音を奏でるピアノを残して橘花たちは理科室へと向かう。

 科学薬品の匂いがツンと鼻につき、独特な空気を作り出し、人体模型や標本や解剖の資料のポスターなどが恐怖を演出する。


 三人の視線の先にある人体模型は二名の期待と、一名の動かないでという願いを受けて、ギリギリと軋んだ音を立てながら腕を上げる。


「ひっ! う、動いた!?」


 怯え抱きついてくる桐の頭を撫でながら、悪い顔をする牡丹が人体模型を見て嘲笑う。


「ぎこちない動きですね」


「本当ね。腕が動くだけかしらね。だとしたらショボいわね」


 これならどうだと、激しく上下し始める人体模型。ガチャンガチャン音を立て動く人体模型だがどこかぎこちない。

 それに段々と勢いがなくなり、上下の揺れが弱くなっていく。


「後はトイレにある三番目の個室をノックして名前を呼ぶと……」


「は、花子さん!? ト、トイレは怖いっ! やめましょう」


 怯える桐には構わず、橘花は手帳を見ながら次の行き先候補を述べていく。


「花子さんは有名だものね。でもね地域によって違いがあって、人を食べたりするってヤツから助けたりしてくれる、トイレを掃除してくれたりってのもあるみたい。ここの花子さんはどんな個性を見せてくれるのかしら。

 他にはグランドにある銅像が、百メートルを七秒で走るらしいわ。それと、体育館で全部のボールが一斉に跳ねて、最後はコートの端からバスケットゴールに全部シュートを決めるらしいわ。桐はどれから行ってみたい?」


 遊園地のアトラクションでも選ぶように、どれに行きたいか尋ねてくる橘花に目を回す桐。

 そして三人の後ろでギリギリと体を軋ませながら、何か言いたそうに動く人体模型の姿がある。


「三人で別れて行くのも良いし、手当たり次第に行って怪奇現象を見るのもいいわね」


「どれも見応えありそうですね。私全部見てみたいです! どこから行きましょうか?」


「わ、私はどれも嫌ですっ!」


 嫌がる桐の横で、頭をがくがく揺らし桐に同意するように頷く人体模型は無視しされ、橘花は移動を始める。


 渋々と後ろをついていく桐だが、廊下の途中にある鏡の前を通ったとき、映った自分の姿になんとなく違和感を感じ立ち止まってしまう。


 ニタァ


 鏡の中の桐だけが笑う。


 鏡に波紋が広がりその中心から伸びてきた手に腕を掴まれ、声を出す間も無く桐は鏡の中へ引きずり込まれてしまう。

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