麾く
先を歩いている牡丹がある学校の門の前で止まり、学校の名前を確認すると嬉しそうな顔で、後から歩いてきた桐に向かって手を振る。
「憂慮小学校。桐、ここで間違いないですよ!」
嬉しそうな牡丹とは対照的に桐の表情は冴えない。
「中に入るわけじゃないですし、大丈夫ですよ」
「う~んそうなんだけど。牡丹も幽霊見えたりするの?」
「見えますよ」
そう断言する牡丹に、桐は心底嫌そうな顔をしながら辺りを見回す。
「幽霊ってその辺りにあふれているわけじゃないですよ。強い思念が集まって代表的な形をしたのが幽霊ですから、その辺に漂ってるのは様々な念で形も成してないものだと橘花様が言っていました。でないと今頃生きている人間より幽霊の方が多くなってしまうって言ってました。
それに見えるって言ってもこうやってやらないと見えませんから大丈夫です。それにその思念と波長が合わないと普通の人には見えもしませんよ」
牡丹が視力が悪い人がやるように目を細めて辺りを見回し始める。その姿が可笑しいのと見えないと言う牡丹の言葉に、桐は一瞬強張った表情を緩めるが、すぐに顔をしかめる。
「ってやっぱり、いっぱいいるんだ」
「大丈夫ですって! その辺りにある石ころのようなものですから。ほらっあそこにいるヤツみたいにはっきりしたのは珍しいんですから」
牡丹が学校を指さす方を目で追うと、校舎の窓に周りの景色から切り離されたようにぼんやりと光るシルエットがゆっくり手を上げると、手を桐たちに向けて手招きっぽい動きを始める。
「いっ、いるっ! 私にも見えてるぅ! あれ幽霊なの!」
「ええ、いますねぇ~。あんなにくっきりしてるのは珍しいですよ。お昼でも見えるなんてよほど強い念をお持ちですね」
幽霊が見えたと震える桐は妖怪である牡丹に抱きつく。
牡丹は桐の背中をポンポンと叩きながらなだめつつ、廊下の窓から手招きをする霊を見つめる。
(前に来た男の子たちが見たと言っていたのはあれですかね? 取りあえず橘花様に報告ですね。ですが今はこの幸せを満喫することにしましょう)
牡丹は自分の胸で震える桐の頭を撫でながら幸せを満喫するのであった。
***
桐と牡丹が事務所に帰ると、オフィスチェアの背もたれに寄りかかった橘花が眉間にしわを寄せながら資料を読んでいる姿があった。
「何かあったんですか?」
「ん? ああこれ」
桐が尋ねると、数枚の紙が閉じてある資料を手渡される。
小さな文字と回りくどい文章が連なっているが、タイトルの『憂慮小学校 不審者の調査について』で大体の内容は察することができた桐は、辛そうに文字を追う。
「なんでも夜の見回りしていた先生も、不審者を見たらしくてね。階段から突き落とされたとかで怪我したらしいのよ」
「で、でもそれって警察のお仕事では?」
「もちろん警察に通報して調べたらしいけど痕跡は何もないから、分からず終い。そうこうしてるうちに、幽霊を見ただの、他にも押されて怪我したとか、追いかけられただの、噂が段々と大きくなり学校に行けない子まで出てきたってわけ」
「それで橘花さんに依頼がきたんですか? でも学校が個人事務所に依頼するって珍しいんじゃないですか?」
「資料の最後のページ見て」
桐が最後のページをめくると、そこにはPTA・保護者会一同の文字と署名が何名等々書いてあり。学校側に警察以外の介入をさせてでも、原因解明に勤めるよう要請すると記されていた。
そして調査依頼を希望する団体の名が連なり、その中に『黒猫探偵事務所』の名が記載されているのが目に入る。
「これは……」
「前に来た子たちも関わってるんでしょうね。別の大きな事務所にも依頼しているみたいだけど、規模が一番小さいうちに依頼が来るってのは多分そういうことでしょ。正式に依頼されたら動かないわけにはいかないでしょ?」
今後の動きが見えた桐は項垂れ、代わりに元気よく牡丹が手を上げる。
「橘花様、橘花様! 私幽霊見ましたよ。結構輪郭がハッキリしていたので接触出来る可能性は高いと思います」
「あら本当? 早速会ってみましょうか。会話も出来れば助かるんだけど」
今後の希望が見えたと盛り上がる橘花と牡丹に対して、乗り気でない桐は目で行きたくないと訴える。
「桐は危ないから留守番を頼もうかしら」
訴えが通じたかのような橘花の言葉に、桐はパッと明るい表情になる。
だがそれも一瞬。
「橘花様、桐も連れていった方が良いと思います」
突然の牡丹の言葉を受け、桐は信じられないものを見るような目で牡丹に抗議の視線を送る。
「あの幽霊、桐に向かって手招きしてましたから桐がいた方が接触出来る可能性が高くなると思います。それに私たちだけでは出てきてくれないかもしれません」
「へぇ~そうなの。それじゃあ一緒に行きましょ。幽霊に好かれやすい人がいると助かるわね。それに、幽霊に好かれたってことは、桐個人のところに会いに来るかもしれないし、私たちと一緒にいた方が安全かもね」
そんなことを言われたら桐に留守番なんて選択肢があるわけもなく、顔面蒼白になって、
「私も一緒に行きますっ!」
こう言うしかないのであった。




