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花天月地  作者: 功野 涼し
学校の七不思議

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遭遇

 学校の怪談、『トイレの花子さん』『魔の十三階段』『音楽室からなるピアノ』などなど七不思議なんて数では収まり切れないほど、学校には不思議が溢れている。

 怖くもあり、どこか身近で親しみやすい不思議な魅力を持った学校の怪談たちは、子供たちの興味を引いて止まない。


 日も落ちて真っ暗な小学校の校舎の中を、三人の少年たちがへっぴり腰で歩く。手にランタンを持っていて、光源がLEDなのか無駄に明るく廊下を照らしている。


「本当なの?」


「本当だって、グランドで遊んでたらこの廊下を見たことない女んがスススって滑るように動いてたんだって」


「いっちゃんはそれを追いかけたの?」


「追いかけたよ。そしたら誰も居なくてさ。こっちの音楽教室からピアノの音が鳴って……」


「怖くなって逃げたわけだ」


「うるさいっ! 怖かったんだから仕方ないだろ。だからこうしてお前らに協力を頼んだわけだろっ」


 怒る少年に残る二人の少年が「しー」と口に人差し指を立てと、罰が悪そうな顔をした少年が進行方向へ振り返ったときだった。

 

 廊下の角を髪をなびかせた影が横切る。


「おいっ! あれ!」


 頷くと同時に三人は走り、影を追いかける。


 ランタンの明かりを激しく揺らし、影を乱しながら走り辿り着いた先にあったのは音楽室。


 明かりに照らされる教室札の文字を確認すると、一人が引き戸に手を掛けそっと開ける。


 音楽室という空間に似つかわしくないツンと耳をつく静けさと、窓から射す月明かりが照らすホコリがキラキラと輝く。


「おい、どこかに隠れているかも知れないし、もっと探そうぜ」


 一人の少年がランタンを持った少年をせかす。


「おい、聞いてんのか?」


 動かない少年に小声で話し掛けると、少年はゆっくりとランタンを掲げ指さす。


「なんで、窓が開いてるんだよ?」


 その一言で、三人の目は風になびく音楽室の黒く分厚いカーテンに釘付けになる。


 窓を睨んだ少年が、ランタンを持った少年からランタンを奪うと大股で歩き、カーテンを勢いよく開くと、窓の外を見て下を覗く。


 暗い闇をランタンの光が切り裂き、校舎の前に並んで生えた木が風で揺れているのを見た少年が安堵の表情を浮かべながら振り返る。


「なにもいないし! 先生が窓を閉め忘れただけだって。ん? どうかした?」


 ガタガタ震える少年二人が震える指を、窓際に立つ少年に向けてくるので恐る恐る振り返る。


 振り返った目と鼻の先に、真っ白な顔の瞳が渦を巻いたように黒い長い髪の女の子が一人立っている。


 女の子は青白い手をゆっくり伸ばしてくる。


「あっ……そ……ぼ」


 女の子が発したであろう言葉と、少年たちの悲鳴は同時。


 少年たちは甲高い叫び声をあげ、階段を文字通り転がりながら走って校舎から出ていく。


 ぼんやりと仄かに光る女の子は黒い渦の瞳を動かし、その漆黒の瞳に少年が落としていったランタンの光を映す。



 ***



 桐は冷蔵庫の中を覗き込み考える。


(今後はジュースもストックした方が良いのかな? オレンジジュースぐらいなら……う~んでもあんまり出す機会がなさそうだし。なにより……)


 桐がチラリと視線を後ろに向けると、給湯室の出入り口の影から半身で覗く牡丹の姿がある。キラリと光る目は何かを訴えかけてくる。


(ジュースを置いておくと牡丹が全部飲んじゃうんだよね。ダメだよージュースは置かないよ)


 心の中でため息をつきながら牡丹の訴えているであろうことに心で答えると、通じたのか項垂れてどこかへ行ってしまう。桐は冷たい麦茶を三つのグラスに注ぎ、コーヒーの入ったカップをお盆にのせると応接室へと向かう。


「──だって」


 応接室と言ってもはドアはなく、事務所の端に仕切りがおいてあるだけなので近づくと声が聞こえる。


「失礼します」


 断りの挨拶をしながら仕切りを抜け、テーブルに麦茶入りのグラスと橘花の前にコーヒーを並べる。革製のソファーに沈みそうになり悪戦苦闘しながら座る小学生の男の子三人の姿が可笑しいが、冷静を装いその場を去ろうと半歩後ろに下がる。


「本当にいたんだって! 探偵って謎とか解くんだろ? 七不思議も解いてくれよ」


 小学生三人が事務所を訪ねて来たときも珍しいお客さんに驚いたが、彼らの依頼内容に更に驚いてしまい足を止めてしまう。そのまま少年たちの向かいに座る橘花の表情を窺う。


 桐の視界には眉間にしわを寄せ、なんとも渋い表情をする橘花がいて、腕を組みながら少年たちを右から順に目で追っていく。


「まず初めに、探偵は謎を解くのが仕事ではないわ」


 橘花の「探偵謎解かない」宣言に少年たちが騒めく。


「ええっ! だって殺人現場で犯人を当てるのが仕事だろ。ほら『事実はただ一つ!』ってさ」


「そうですよ。あと、迷宮の謎とか、カラクリ屋敷の秘密を暴いたりするって本で読んだことがあります」


「埋蔵金見つけたりする」


 探偵業への間違った知識をふんだんに盛り込んだ意見を述べる三人に橘花はため息をつく。


「えーとですね。川崎(かわさき)さんに三輪(みわ)さんと佐々木(ささき)さん。探偵は殺人事件なんかは解決しませんし、迷宮の秘密も暴きません。まして埋蔵金なんか見つけたりもしません!」


 橘花の言葉に少年たちは、信じられないものを見るような目で橘花を見る。その目は「お前本当に探偵なのか?」と訴えているようである。


「そもそも、あなた方の依頼を受けたとしても、私が学校に無断で入ることは不法侵入になります。学校側からの依頼ならまだしも個人の依頼で建物の内部調査は受けれません」


 少年たちは橘花の完全否定に身をのけ反らしてしまう。これ以上は話しても無駄だと思ったのか肩を落とし立ち上がる少年たちに橘花は、桐が持ってきたコーヒーを一口飲んで声を掛ける。


「君たちが幽霊を見たってのは信じるわ。学校の外なら調べてあげるから、自分たちで幽霊を探そうなんて思わないこと。いい?」


 素直に「はい」と返事をする少年たちの表情に少しだけ明るい光が射す。頭を下げて帰る少年たちを見送った後、桐がテーブルのグラスを回収していると、橘花が空になったコーヒーカップを指で弾いて軽やかな音色を響かせる。


「考え事ですか?」


 桐が手を伸ばすと橘花は、コーヒーカップを手渡しながら答える。


「ん、まあ。最近、幽霊とか妖怪だとか活発だなぁって」


「もう、妖怪ならまだしも幽霊なんているわけないじゃないですか」


「いるわよ」


「え゛っ」


 「幽霊はいるよ」と普通に断言された桐は変な声を出しながら、グラスとカップをお盆ごと落としそうになるのだった。

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