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花天月地  作者: 功野 涼し
鬼ごっこ

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吐露

「どうにも最近私のことを、お年寄り呼ばわりしてくれる人が多くて迷惑してるのよねぇ」


 橘花が青鬼に指を向けパチンっと指を鳴らす。


クリール(走れ)!」


 青鬼の体内にあった銃弾が勢いよく動き出し、円を描いて青鬼の体を袈裟(けさ)掛けに切り裂く。


 青黒い血を吹き上げながらちぎれそうな体を手で押さえ、青鬼は橘花たちの方へ向かって進んでくる。


「どういう生命力してんのかしら。ちぎれそうな体を押えて走ってくるとか人間じゃないわね」


 今にもズレ落ちそうな体を手で押さえて自分の方へ向かってくる異常な光景。


 それに対し、ため息をつきながら銃に鈴の弾丸を込める橘花の姿に桐は、安心感を覚えると同時に、この人の方が人間離れしてる気がする。そんなことを冷静に思える自分が可笑しくなってしまう。


「こんなときにニヤけるだなんて、意外に余裕ね。動けなくなったり、泣かれたりするより助かるけど」


 橘花も笑みを浮かべ銃弾を放つ。


 リーンと響く澄んだ銃声は美しさと共に無慈悲さを感じさせる。


 青鬼は鈴の銃弾を額に受け体をのけ反らした反動で、袈裟型に切れていた体がズレ落ちていく。ズレる体の上下からそれぞれ数本の手が生えてくると、互いに手を繋ぎ体が落ちるのを防いでしまう。


「それ、意味あるのかしら? 手は生えてくるのに切れた部分は繋がらないなんて不便ね」


 体から生えてきた手が引っ張り合い、ズレた体を元の位置まで戻すと、青鬼は濁った瞳を桐に向けた後、橘花へ移動させると瞳の中にある黒い点が激しく動き始める。


「おまっ、おまえ! きりちゃんとぼくのあいをじゃまするな!!」


 怒りをあらわにして叫ぶ青鬼に、桐は橘花の後ろで身を縮め萎縮してしまう。


「あんなこと言ってるけど、桐はどうなの? あっちは愛がどうとか言ってるけど桐にその気はあるの?」


「ど、どうって……」


 正直この場面で話を振らないで欲しい、しかも普通のトーンで好きかどうかを聞いてくる橘花をちょっぴり怨みつつ、青鬼の方へ視線を移す。


 濁った目に額からいびつに生えた角。唾液の

 糸を引きながら大きく開いた口には、黄ばんで薄汚れた牙が無数に並ぶ。


 体がズレ落ちまいと生えた無数の手に、先ほど弾けたせいか、体のあちらこちらが抉れている。


 そんな見た目に怖じ気づき思わず唾を飲み込んでしまうが、自分への愛を一方的に叫ぶ姿に怒りもふつふつと怒りが湧く感覚も感じる。


 ただ「好きだ」と言うのなら自由だろうが、気持ちを押しつけ、自分のことも知らず言葉も交わしていないのに、偽りの言葉を叫ぶ青鬼に対する(いきどお)り。


「普通はあんな錯乱してる相手を刺激するのはオススメしないけど、今は私がいるしそれに……」


 橘花が桐に話している途中、上から黒い影が降りてくると桐の前に立つ。


 着物の一部が破れ頬に傷があり、口元には血を拭った跡があるが、牡丹は桐に向かって満面の笑みを見せる。


「私もいますから、アイツにバシッと言ってやってください!」


「そういうこと。あまりこういう場面はないだろけど、自分の気持ちを押し込めてばかりでなく口にすることも、ときには大事よ。

 答えは決まってるんだろうし、アイツがどうなるかは予想がつくから安心して言っていいわよ」


 桐が牡丹と橘花の目を見て頷くと、二人の前に出る。


「きりちゃん」


 桐の姿を見て青鬼はぐふふと笑いながら、愛おしそうに名前を呼ぶ。

 そんな姿に足がすくむが、一歩前に出ると大きく息を吸う。


「私は……私はあなたのことを知りません! ですから、好きだと一方的に言われても困ります!」


 否定することに慣れていない、桐にとっての精一杯の否定。その言葉を受けて青鬼は、首のない首を傾げ頭を捻る。


「だからっ、そのっ! 私はあなたと……あなたのことは好きではありません!」


「すきじゃない? きりちゃんが? ぼくのことを?」


 上下がひっくり返りそうなくらい、首を傾げる青鬼の問いに桐がゆっくりと頷く。


「ああああっ!! うそだああ! きりちゃんがぼくのことを、きらいなわけがないんだあああああ!」


 頭の上下を反対にしたまま叫ぶと、頭を手で掴み強引に元の向きに戻すと橘花を睨み付ける。


「おまえ、そうだ! ばばあっ! おまえがいえっていってた! いわせたんだ! きりちゃんにいわせたんだ!! ぼくをきらいっていえって!!!」


 唾を飛ばしながら怒鳴り散らし、かんしゃくをおこした子供のように手足をバタつかせ橘花に向かって体を揺らしながら向かってくる。


「き、桐! 離れますよ」


「え、ええっ!?」


 突然牡丹が桐を抱えると走ってその場を離れ始める。


 向かってくる青鬼に対し、身動ぎもしない橘花を桐は心配そうに見る。


 橘花に青鬼の手が伸びる。


 桐よりも体の小さい橘花を握りつぶそうとする手がスローモーションで見える。指先が橘花に触れそうになる瞬間までゆっくりと進んでいた時間が、橘花が顔を上げたとき、急に動き始めたように見えた。


 背中の羽が橘花を包み、大きく広がると青鬼の両手を弾き力強く羽ばたいて真上に飛んでいく。

 キラキラと光を放ちながら落ちてくる光の粒は、舞い落ちる羽のようでその幻想的な光景に口を半開きにした桐と牡丹が上を見上げる。


 上空で羽を広げ真下に青鬼を見下ろす橘花。


「桐も頑張って言ってくれたんだから、ここで私がキレたら台無しになってしまう~って、やっぱ腹立つわぁ!」


 橘花が空中で地団駄を踏むと、右手をかざす。


「『エーデルカッツェ(高貴な猫)』」


 大きな魔法陣が展開し、何重にも等間隔に重なり広がる円が文字と共に回り始めると長い銃身の銃が出てくる。

 木目の美しい本体はしっとりした輝きを放っており、黒く光る銃身を地上に向け、銃床(じゅうしょう)を肩に当てるとボルトハンドルを引いて、数発の鈴の弾丸を込める。


「これでお終いにしましょうか」


 橘花はスコープ越しに見える青鬼に囁く。

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